燃える監獄
ガシャガシャとけたたましい音を響かせ、スケルトンの群衆がゆっくりとにじり寄ってくる。
数えきれないほどのスケルトンが、狭い監獄の廊下の奥までみっしりと詰まっているのだ。
「げっ!」
吉仲は、その様子に違和感を覚え、スケルトンの群れをまじまじと見る。同じような剣、同じような盾、同じようなスケルトン。
しかし近づくスケルトンを前に冷静に考えることはできなかった。
違和感を特定する前に、まずは自分の身を守ることが先決とおたまを手に取り鞄をあさる。だが、この状況を打破する道具は思いつかない。とにかく数が多すぎる。
「そんな!ありえないわぁ!」
四階層への入り口は檻で閉ざされていた。
そしてその四階層もくまなく見て回り、何もないことをたった今確認したばかりだ。こんなに大量のスケルトンがいるわけがない。
スケルトンは最初のスケルトンと同様に剣と盾を持ち、近づいてくる。
そして、彼らは最初のスケルトンと異なり、自分たちに明確な敵意を持ち進んでいることも見てとれた。
「……隠し通路を見落とした?……いえ?そんなことはないはずです……」
マルチェリテは人形に臨戦態勢を取らせつつ考えこむ。
元のダンジョンの構造や、魔物の作用、あるいは魔力による何かしらの変質でダンジョンに隠し通路ができることもある。
だが、これだけの数のスケルトンが隠れていたなら、さすがにその通路に潜む魔力を自分かナーサが感知できるはずだ。
「そんなこといいから!今はこいつらなんとかするわよ!」
フェルシェイルが人形の隣に滑り出る。
ベルキドアは熱を感知し一歩退く、木製の人形は炎に弱い。混乱していたナーサとマルチェリテも戦闘の意思を固める。
フェルシェイルが両手を広げると、手のひらから赤い炎の羽根が舞い散る。
そのまま素早く両手を交差し、スケルトンに逆巻く炎を放った。
炎は瞬く間に廊下全体に広がり、薄暗く肌寒かった監獄の姿を一変させる。
高熱の風が吉仲達にも浴びせられる。火傷しそうなほど熱く、呼吸のたびに喉が灼けつくようだ。
黒い鉄の牢に炎が反射し、天井と床が焦げ付き、スケルトンの集団が炎に巻かれる。
まさしく地獄の光景だ。それでも、スケルトンの歩みは止まらない。
両手の力を抜き、フェルシェイルが炎を止める。
あまり長時間使うと、仲間たちの身体も熱でダメージを受けると判断したためだ。
短時間とはいえ効果はあった。
高熱の炎をまともに受けた前列のスケルトンは、踏み出すとともに脚が崩れ、転び、床に全身を打ちつけて砕け散る。
その後ろに続くスケルトンも、前のスケルトンに引っかかり、倒れ、砕けていった。
骨そのものは燃えないが、急激に熱されたことで脆くなったのだ。
フェルシェイルの少し前に、骨の山が積み重なる。
だが、後続のスケルトン達は歩みを止めることがない。少しずつ転び砕ける者は減り、その骨の山を踏み砕いて近づいてくる。
「まだいるのか……?四階層に収まりきらないくらいいるんじゃ……」
続々と近づくスケルトンに、吉仲が恐怖と呆れが混ざった声を発する。
ナーサは廊下の奥に目を凝らすが、皮鎧の燃え残った炎でよくは見えない。
フェルシェイルが再び火を放つ。
結果は同じだった。前列こそ炎に焼かれ、脆くなって砕けていくが、やがて炎を受けていない後列が骨を踏み締めて近づいてくるのだ。
「キリがないわね……」
三度炎を放ち、フェルシェイルが歯噛みする。
火の鳥に守られた自分は平気だが、このまま炎を使い続けるとリヨリ達が熱で消耗するだけだろう。そして、スケルトンは途絶えることなく歩いてくる。
「……先に進むしかなさそうですね」
マルチェリテの言葉に、リヨリが頷く。吉仲はナーサをみるが、ナーサにもそれ以外の手は思いつかないようだ。
「マルチェちゃん、ベルちゃんで先導お願いねぇ。フェルちゃんはしんがりだけど大丈夫?」
ナーサの言葉を待たず、ベルキドアが階段を降り始める。
「早く行きなさいよ。全力全開で燃やしてみるから」
フェルシェイルは、むしろ一人の方が気楽になりそうだと感じた。