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三階層の不思議な構造は、四階層を見て回ることで説明がついた。


このダンジョンの原型は監獄だったのだ。


四階層は、全てが牢屋になっていた。


そこから、一階層と二階層が主に看守の詰所と倉庫、三階層は脱走者を惑わせ、挟み撃ちにして捕らえるための回廊だということが分かった。


四階層入り口の、不自然に階段に据え付けられた檻も、元は囚人を逃さないための物だろう。


放射状に五つに分岐した廊下に、狭い牢屋が左右に四部屋ずつ。一フロアだけで四十の牢屋がある。


牢の部屋は全て、窮屈なベッドだったと思われる塵の積もった小さな台と、ただの溝とも言うべき厠だけの構造だ。

溝は左右の部屋と繋がり、水で押し流す構造のようだが当然幅は極端に狭い。どの部屋もひときわどす黒く汚れていた。


思わずこの劣悪な環境に囚われる想像をしてしまい、吉仲はゾッとする。


「……随分古いものですね。王都の地下ダンジョンと同年代の物のようです」


マルチェリテが牢屋の設備を見て、感心したように言った。


浅層の白亜のダンジョンこそ脈々と内装の維持と更新がなされてきたが、それより下の遺跡のまま残っている層と同時代の物に見える。


王都のダンジョンからは、人が居住していたことを示す遺物がよく見つかる。

そちらが居住地だとすれば、ここがその古代都市の犯罪者を収監する監獄だったのだろうとマルチェリテは結論づけた。


「ダンジョンになっているとはいえ、牢屋ってなんにもないのね。ただの檻の集まりって感じ」


先頭に立ち、炎で照明を投げかけるフェルシェイルが不思議そうにつぶやいた。


四階層には、他に魔物はいないようだった。監獄だった時代の遺物すら見当たらない。

殺風景な牢屋は全て無人で、魔物が巣食っている様子はない。


「牢屋だし、何かがある方がおかしいんじゃないか?」


吉仲には特に不自然には感じなかった。

人権などが保証されているようには見えない。囚人の所持品を持ち込めなくても不思議ではない。


一番右から伸びる廊下の突き当たりに、下の階へと続く階段があった。それ以外の廊下は行き止まりだ。


「うーん‥…でも、魔物もいないの変じゃない?」


リヨリはスケルトン以外と遭遇しないのが不思議に思う。

スライムやジャイアントバットの気配すらない。フェルシェイルの火から逃げた魔物と、行き止まりで遭遇することもなかった。


「さっきのスケルトン、二足トカゲと同じく、下の階層から上がってきたのかしらぁ?」


ナーサも同様の違和感を覚えていた。

たしかにスケルトンはただフラフラと歩き回るだけのこともあるが、降りたのと同時にあの一体だけがいるというのは、何かおかしい。


「……降りてみる?」


リヨリが階段を指さすのと同時に、がしゃり。と、乾いた音がする。


「なんの音だ?」


聴き慣れない音に、吉仲は辺りを見渡した。だが、遠くで反響し、どこが音の発生源かはわからない。


がしゃり、がしゃり。


「下かしら?」


フェルシェイルが階段を除きこむ。炎に照らされても、階段は途中で折れ曲がり奥は見えない。


がしゃり、がしゃりという音は、少しずつ大きく、そしてテンポが早くなっていく。

異変が起きたことは間違いない。マルチェリテとナーサが振り向いた。


音はすでに、ガシャガシャガシャと耐え難いほどの騒音となっていた。


「ひっ」


振り返ったリヨリの小さくな叫びが響く。スケルトンの大群が、廊下を埋め尽くしていた。



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