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風葬

マルチェリテの人形、ベルキドアが五人の前に立ち、スケルトンと対峙する。


両手に握られたサーベルはダンジョンの照明のほのかな輝きを反射し、キラキラと輝いている。曇りひとつない業物だ。


引き絞られた弓のような緊張感に満ちた構えは、吉仲やリヨリにすら熟練の剣士を思わせる。


スケルトンは腕を振る速さを上げ、じりじりと近づいてくる。

危険は少ないが、それでも当たれば大怪我はするだろう。人形なら破壊される。


だが、マルチェリテは微笑みを崩さない。


「――ベルキドア。風葬にしてさしあげて」


マルチェリテの言葉が言い終わるや否や、人形が疾風の速さでスケルトンを強襲し、両手のサーベルが乱舞した。


薔薇の花のように舞う銀の軌跡が、スケルトンを包み込む。スケルトンには反応することもできない。

輝く軌跡は、骨を貫く瞬間、骨の裏手に回り陰になった瞬間に暗くなり、明滅するようにも見えた。


だがそれも、瞬く間の出来事だった。


ベルキドアがスケルトンの後ろに進み、緩やかに静止してもなおスケルトンは形を保っている。吉仲には人形がすり抜けたようにすら見えた。


ベルキドアが白刃を腰の鞘に収めたと同時に、スケルトンの身体が崩れる。

さらさらとこぼれる砂のように粉砕され、風とともに散っていく。


スケルトンに残されたのは器用に刃が避けていた盾と、剣を持つ手首から先のみだ。

操作する低級精霊ごと切り裂いたのか、魔力を失い、手首がボロボロと崩れ落ちる。


「すごいな……」


粉砕されたスケルトンは風に乗り、消えていく。吉仲は舞い散る粉塵を見てつぶやいた。

そして背の高い人形に、安心感と頼もしさを覚える。


イサの剣技を遥かに上回る、本職の剣士の動きだ。

これなら、今までのような身の危険を感じることもなさそうだ。


マルチェリテも満足げに頷いた。

日頃からの手入れの賜物だ。久しぶりに起動したが、特に動作に問題は無いようだ。


「ふふ、剣に負荷を欠けず切る動作に十年。そこから剣士の所作に近づける研究と調整に、十五年はかかりましたね」


自信に満ちた声には、彼女の微かな自慢の響きが含まれている。


剣士の動きを観察し、動きを設定し、試しに立ち会ってもらい調整を加える。その地道な繰り返しの成果だ。


彼女がエルフの集落にいた頃の生業(なりわい)であり、唯一の娯楽でもあった。

エルフの文化では役目に楽しみを見出すことを否定するが、マルチェリテにとっては何よりも没頭できる、心躍る時間だった。


作られた人形は剣士の腕を磨くことと、集落の守護に利用される。

彼女は村を出るとき、もっとも出来がよく、愛着のあるベルキドアをこっそりと持ち出したのだ。


「うーん。マルチェちゃんを呼んで正解だったわぁ。これでリヨちゃんも戦う必要は無さそうねぇ」


ナーサの言葉に、リヨリが唇を尖らせる。だが、何も言えなかった。

実際にこれだけの実力があれば、ほとんどの魔物は相手にならないだろう。


逆に、ベルキドアでも勝てないような相手に自分ができることがほとんど無いのは、ドラコキマイラとグリフォンとの戦いの経験でよくわかる。


「……とにかく先に進もうよ。四階層見て回るんでしょ?」


リヨリが複雑な表情でベルキドアを見つめ、振り返ってつぶやいた。



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