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異世界グルメ王 牛丼屋バイトが最強味覚を手に入れて、料理バトルの審判に!  作者: トラウマ未沙
ダンジョン:ジャイアントバット
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マジックボックス

今までリヨリ達一行を品定めしていたリーダー格のノームが話している間に、他のノーム達がどこからともなく箱を取り出した。

無地の濃いオレンジの箱で、つるりとしていて光沢があり、蓋の継ぎ目も無い。

吉仲にはプラスチック製の箱にも見えた。ノームの背丈より大きい、リヨリの胸と同じ高さだ。


「ヤツキが使ってた道具。おまえら使え」

ノームがリヨリの手を引いて、箱に触れさせる。


「え?……ええ?あれ!?」

リヨリの手は静かに箱の中に入り、瞬く間に肘の手前まで箱の中に飲み込まれていた。リヨリは手をもがくが、箱は動きもしない。


「大丈夫よぉ、リヨちゃん。何かを掴んだら、思い切って引っ張ってみなさい」

ナーサの声に合わせてリヨリが意を決して引き抜く。その手には、大振りな山刀が握られていた。

刃渡りは十五センチ程度、直刀を太くしたような無骨な形状をしている。


「魔物を解体するナイフ、ヤツキが使ってた」

「お父さんの……ナイフ」


白銀の山刀は、リヨリの手に不思議と馴染んだ。見た目の割に軽く、振っても疲れなさそうだ。刃に手を当てる、よく切れそうでもある。


ノームがリヨリに皮のホルダーを差し出す。

「ありがとう!」

リヨリは腰に巻き、背中のホルダーに山刀を収める。すぐに抜け、護身にも使えそうだ。


「えへへ~、どうカッコいい?」

ホルダーを身に付け一回転し、さっと山刀を抜く。ナーサがパチパチと拍手した。


「つぎ、ヨシナカ」

「ええ?俺も?」

リヨリが山刀を振っている間に、ノームは吉仲を引っ張る。


「丸腰で行くと死ぬ」

行く気は無いんだけど、と言いたくなるのを我慢した。今帰ったらリヨリに何を言われるかが分からない。


渋々オレンジの箱に手を入れる。箱の表面に触れるつもりだったが、何もないかのように、抵抗無く箱の中に手が飲み込まれていく。


「うわー……」

たしかに、リヨリが驚くのがよく分かる。リヨリがやったのを見てなお、吉仲は驚いた。気づけば肘の辺りまですっぽりと収まっていた。


「ていうか……そのナイフの刃よく当たらなかったな……刃物があるならこの状態危なくない?」

「マジックボックスだから大丈夫よぉ、危険な物でも安全に取り出せるわぁ」

ナーサが安全というなら、と、意を決して腕を振る。

箱の中は空っぽかと思うほどに何も無い。手探りで動かして見るが、何一つ当たることがない。


「あれ……無いぞ?」

「え?結構いくつかあったけど……あ、でもこの子は最後に手に収まって来た感じする」

リヨリは新しいナイフにご満悦な表情で掲げた。


二の腕の辺りまで入れて大きく振っても、何にも当たらない。

「マジックボックス、持ち主が望む物を出す力がある。もしかしたら、吉仲に合う物が無いのかも」

ノームが吉仲をじっと見つめる。


「あ、そうなの?じゃあ俺は……」

帰れる、と言おうとした瞬間、手に何かが吸い付いてきた。すごく手に馴染む感覚がある。


「……う」


こんな異質な状況で、見ずに掴んだ、掴まれに来た物が妙に手にしっくり来る。言葉にできないほど不気味だった。


「どうしたの?掴めたの?」

リヨリとナーサも不思議そうな顔で吉仲を見つめる。

「……掴めた……」


ゆっくりと、手を引き抜く。細身の柄はナイフの類ではないことを教えていた。オレンジの箱から抜けた手に、金属製のおたまが握られていた。


ナーサとノームが息を呑む。


「吉仲……これからダンジョンに行くんだけど、おたまで何するの?料理?」

リヨリがニヤニヤと笑う。吉仲も呆れ果てた。


「俺に言うな……こんなんで何しろってんだよ」

おたまの手に馴染んだ感覚を思い出す。

バイト先で一番使う調理器具は、電気器具を除けば鍋とおたまだ。

吉仲はおたまを弄ぶ、どう見ても何の変哲も無い、普通のおたまにしか見えない。


「ちがう」


ノームが呟いた。

「うん、違うわねぇ……何この、膨大な魔術式……」


ナーサが目を見張ったまま吉仲に近づく。その熱を帯びた視線はおたまに注がれている。吉仲の鼻腔をナーサの香りがくすぐった。


「え?」


右手に握ったおたまに、ナーサの細い指が触れた。そのまま柄の部分を静かになでる。


「循環?……分解?……転化?……ここで増幅?凝集?暗号みたいに読み解きにくい表現をしてるわねぇ……分岐して、ここに戻る?でも反対でも同じように循環して、互いに参照しあっている……なんなのこれ?このままじゃ意味をなさないはずなんだけど……」


ナーサは吉仲の手を取って、おたまを熱っぽく見つめる。吉仲は自分が見られているわけで無いことを知りつつなお、ドキドキした。


「それ、ヤツキが拾ってきて、結局使いこなせなかった異物」

「遺物ぅ?古代アーティファクトってことぉ?」


リーダーノームが身体を赤くして、吉仲に対峙する。

他のノームは怯え箱の陰からおっかなびっくり覗いていた。


「それもちがう。異物。この世界にあらざるモノ」

ナーサは吉仲から受け取り、本格的に魔法式の解析をはじめる。


「吉仲、いったい何を掴んだの?」

「だから、俺に分かるわけないだろ……ただのおたまだと思ったよ」


リヨリと吉仲はナーサとノームを見つめるだけだ。

「うーん、ダメかも。ちょっと使ってみないと分からないわねぇ。……でも、相当面白い……かもぉ?」


五分ほど見つめていたナーサは首を振り、おたまを吉仲に返す。そのまま二人を魔法陣まで引っ張った。


「まぁまぁ、使って見るのが一番ねぇ」

「え?でもヤツキも使いこなせなかったって」

「あらぁ?でもこの子たちは吉ちゃんを選んだようにも見えるわよ?いいわね、吉ちゃん。リヨちゃんも」


リヨリが山刀の位置を確かめ頷く。

吉仲は手に握られたおたまを見るが、これから危険なダンジョンに挑むための道具にはどうしても見えなかった。

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