蘇る記憶
「恐るべきはテツヤ選手!生の極みとも言うべき料理を、死の極みとも言うべき料理で打ち破った!
アリーナの中にいる者で、司会だけはただ一人明るさを保っている。
観客たちにも、その様子は不思議な光景に感じられた。
「準決勝第二試合はテツヤ選手の勝利!」
敗者がうなだれているのは当然としても、勝者は眉一つ動かさないのだ。
リヨリのように感情を爆発させてくれれば熱狂できるが、この状態には観客たちも乗りにくい。
まばらな拍手が響く。
テツヤは祝福に興味を示さず、振り返った。
「……一つ聞きたい……シーサーペントの幼生はどういうことだ?」
そのまま立ち去ろうとするテツヤの背を、ガテイユが真剣な表情で見据えた。
閑散とした拍手はすぐに止む。テツヤが振り返り、ガテイユを見た。
「試合が始まるまでテーマは知らなかったはず。それに、誰もあれを食べることなど考えたこともなく、当然市場にもない。……どうやって用意したんだ?」
テツヤは一歩ガテイユに近づく。
ビジョンズに、死神の顔が大写しになる。
「……特に何も。一回戦前に食材が発表された後、取りに行っただけだ」
しかし、死神は事も無げに言い放った。
「時期的な物はあるかもしれん、だがあれはシーサーペントのいる内海であれば網ですくえばどこでも取れる。それを持ってきただけだ」
馬車には乗ったが、テツヤは特段急いだわけではない。
北の漁港へ行き、シーサーペントの幼生を取り帰るだけでも十分すぎる時間があった。
ガテイユは二の句を告げず、黙り込んだ。
ここまで何事も無かったように言われると、返しようがなかった。
「……どうしてこのテーマにしたんだ?フェルシェイルに勝つためか?」
ガテイユの反応を見て、吉仲が尋ねる。
いつものような料理ではなかった。
今まで通りの相手を上回る最低限の料理でもあったが、今までにない思想を料理に感じられたのだ。
テツヤは目をつぶった。
「……違う、勝ち負けなどどうでもいい」
テツヤが目を開く。
暗黒の穴が吉仲を飲み込むようだ。拭い去ることのできない死の雰囲気。
「……生命力が溢れる料理など笑止千万。食材は、ことごとく死んでいる。人もまた必ず死ぬ。ならば、食べる時こそ死を見つめるべきだ」
口上を述べるテツヤから目をそらせない。
吉仲は、ここがアリーナであることも忘れた。
本物の死神が目の前にいる。
吉仲は、思い出したのだ。
バイト先の牛丼屋、やつれた中年、一番奥の席、出刃包丁、パートのおばちゃんの叫び声、腹から流れる赤い血、血走った瞳、皺だらけの顔。
「死を味わうことこそ、料理だ」
その中年の顔が、今なんの感情も持たず吉仲を見つめている。
リヨリの店で最初に目が覚めた時にバイト先と間違えたのは、混乱していたからではなかった。
最期を、あそこで迎えていたからだ。
テツヤ。
この男は……俺を殺した男だ。