死神の鎌
吉仲は、もう一度フェルシェイルの料理を思い浮かべる。
太陽のような花のような、麗しい見た目。
外はサクサク、中はホロホロ、そして中心にいくほどにとろりとしていく楽しい食感。
濃厚なバターと上品な塩味、そしてリヴァイアサンソースの複雑な旨味。
食べるほどに生命力が満ち溢れていく、素晴らしい料理だった。
今でも身体がポカポカしている。
フェルシェイルの料理で、ダンジョンに潜り審査をしていた今までの疲労はすべて吹っ飛び、なんなら走り回れそうだ。
だが、考えを巡らせるほどに、心に陰を落とす物がある。
“切られた”
その印象が、拭い去れない。
何度も味を再生しても、テツヤの料理が、死神の哄笑が頭をちらつく。
フェルシェイルの料理の溢れる生命は、シーサーペント幼生の膾、成長したフライと共に、死神の鎌に切り落とされたように感じられるのだ。
「試食の順番が悪かった……いや、違うな……」
順番が変わった所で、死神の鎌に切られた後は不死鳥の蘇生の力も効かないのではと感じるほどの、圧倒的な迫力が鱗焼きにはあった。
しいて言えば、食い合わせが悪い。
生命力を食し、食べる者の命を鼓舞する料理は、同じく生命力を食し、食べる者に死を思わせる料理の餌食となる。
二人の対極の料理は、フェルシェイルにとって相性最悪だった。
フェルシェイルを見る。
緊張しつつも、自分の料理に自信を持っている目だ。
横目でテツヤの方を見る。
相変わらずの無表情、目ではなく、ただ暗い穴がぽっかりと開いているようにも見える。
そして、その穴は、吉仲の心をざわつかせる。
「それでは最後に吉仲さん、結果をどうぞ!」
感情だけなら、フェルシェイルの勝ちだと叫びたい気分だ。だが、それを言葉にしようとすればするほど、死神の鎌がちらつく。
「……この勝負は」
言葉に詰まる。吉仲にとっては、すでに思想の問題を越えていた。
料理そのものの命を比較した結果を、断腸の思いで口にする。
「……テツヤの勝ちだ」
驚くように目を見張るフェルシェイル、その瞳はゆっくりと潤み、目に涙が溢れる。力尽きたようにがっくりとうつむき、肩を震わせた。
テツヤは、特に表情を変えない。
「フェルシェイルの料理は、鎌に切られた……あ、いや……」
吉仲は訂正し、感じたままのことを述べる。
三品で比較した時の、フェルシェイルの料理をも沈黙させるテツヤの料理の圧倒的な迫力。
――そして、生と死の相性の悪さ。
「たしかに……相性は悪かったかもしれないが……俺は、それすらも跳ね返す生命力があったと思うぞ」
ベレリの反応に、吉仲は悄然と首を振った。
「フェルシェイルの料理の生が際立てば際立つほど、テツヤの料理が落とす死の陰は深くなる。死からは逃げられないと、そう思わせるほどの迫力で……」
吉仲は、全身に寒気を感じる。
思えば、自分は死んでからここに来たのだ。
昔、ナーサに聞かれた時は漠然とした意識しかなかったが、今はハッキリと死神の気配が感じられた。




