愉快と不安
シーサーペント幼生の膾を食べた食通達は、感じ始めていた満腹感をすっかり忘れ次の料理を待っている。
元々フェルシェイルの料理で活力がみなぎり、食べられるような気になっていたのだ。
それどころか冷たくさっぱりした物を食べたことでクールダウンし、どこか空腹のような気さえしてくる。
テツヤが、音もなく皿を並べる。
「――二品目、背身のフライ。味はついている」
皿の上にはこんがり揚げられたフライと、付け合せのサラダ。
白身魚のフライというよりは、肉巻きフライのように筒状になっている。
「三品って言ってたけど、これがメインディッシュ?焼き魚もあるはずだけど……」
シイダがナイフとフォークでフライを切り分け食べる。
「あら!これも上品な料理ね!」
よく骨切りされた背身はホロホロと崩れるが、それとともに潮の風味が口中に吹き抜ける。
「味付けは海鮮ダシと藻塩で、上品な潮の風味となっているな」
そして、噛むごとにコリコリとした食感と、サクサクとした食感が表れる。
コリコリ、サクサク、ホロホロと様々な食感が口中で入り乱れ、音楽を奏でるようだ。
「ふむ!軟骨と衣の食感の組み合わせはなかなか愉快だな!……それに、それぞれ別の味がついている!」
ガテイユとベレリの言葉に頷いた吉仲は、また違和感を覚える。
テツヤが口を開いた。
「基本は同じ味だ。だが、軟骨には風味づけに薬味を、衣には胡椒を加えてある」
「それも……一つ一つのフライの味がちょっとずつ違っているな。風味づけがショウガだったり大葉だったり、胡椒も濃淡があってバラエティに富んでいる」
味付けのバリエーション、そして軟骨の食感のバリエーションが楽しく、食べれば食べるほどもっと食べたくなるような気がしてくる。
観客席が感心の声をあげた。
単純なフライに見えて、様々な工夫がなされているのだ。
「さっきの幼生の膾は爽やかな味でしたが、今回は楽しい料理ですね!」
マルチェリテの言葉に、ベレリが頷く。
活力がみなぎった身体がワクワクしてくるような、愉快な料理だ。
吉仲には、そこが不自然だったのだ。
今までのテツヤの底知れないうまさを持つ料理というより、リヨリが作るような愉快な驚きがある料理だった。
三品と予告されていることから、楽しい料理を食べつつも一抹の不安が拭えない。
何かが待ち受けているような気がする。
ただ、愉快な料理を味わっていることで、不安にフォーカスすることはできなかった。
どうして不安なのかを考えようとするたび、不安は消えてコリコリ、サクサク、ホロホロとした食感で満たされるのだ。
愉快な料理と、形にならない不安で、心がざわつく。
テツヤの料理の世界に引き込まれているのではという気になっていく。
テツヤが皿を片付けていった。気づけばフライを全て食べ終わっていたのだ。
「三品目……鱗焼き」
テツヤが最後の一品を並べた。




