軟骨
鱗がついたまま焼かれた尾の隣の鍋から、テツヤが白く細長い物を取り出す。
フェルシェイルの火球に注目が集まっている間に、処理をしていたものらしい。
そして、骨切りを終えた背身を同じ鍋で軽く湯通ししてザルにあけた。
テツヤは、取り出した白く細い物を包丁で切り始めていた。
固い物らしく、珍しく力を込めて包丁を振るっている。
「ん?あの白いのはなんだ?」
ベレリがつぶやく。
肉ではない、骨のようにも見えるが、骨にしては柔らかそうだった。だが、とても食材には見えない。
ガテイユがテツヤの手元、そしてそれが大写しになったビジョンズを交互に見る。
「……ふむ。おそらくは軟骨ですな」
「軟骨?」
吉仲もガテイユを見る。ガテイユは考え込むように顎をなでた。
「背骨の周囲からも取り出せますが……あまり食べることはありませんな」
シイダが頷く。
「軟骨と言っても固くて、食べられるようになるまでの処理に手間がかかるって聞くわね」
軟骨とは生物学的には、関節を保持するため、あるいは弾力の必要な部位を形成するための体組織だ。
当然、肉ほどの量を取り出すことはできず数は限られる。
シーサーペントの軟骨は、その身体の大きさゆえに多く手に入れることはできるが、大きさゆえ通常軟骨と聞いてイメージする物よりも遥かに固い。
強靭な関節でなければ、重厚な身と鱗を支えきれないのだ。
固い軟骨はフェルシェイルが小骨を熱したように、かなり熱を通して柔らかくしなければ食べられない。
しかし、何をしてでも取り除かなければ身を食べられない小骨と異なり、軟骨にはそこまでして食べる価値は低いと考えられている。
テツヤは熱を通した軟骨を、さらに細かく刻むことで食べられるようにしているのだろう。
ミンチにでもするように包丁で執念深く切り続けている。
「鱗がついたままの尾に、みじん切りの軟骨か……リヨリの料理並に最終形が分からんな」
「はい、それに……あの箱です」
入場時に持って入ってきた箱は、未だに調理台の脇に置かれたままだ。
下処理がされた食材か、調味料でもない限り調理に使える時間は少ない。
急ぐ様子もなく黙々と作業を続けるテツヤは、ひたすらに軟骨のみじん切りを続ける。
司会が声をあげた。
「残り時間は三十分!テツヤ選手は軟骨を刻み続けている!一方、フェルシェイル選手調理台の上のあの物体はいったいなんだ!?」
フェルシェイルの作業台の上には、五つの白い球体が乗っていた。




