フルファイア
踊る炎の素早さでシーサーペントの頭から食材となる部分を切り出し、脳を取り出す。
そしてフェルシェイルは赤熱した身体のまま、精紋の火の鳥が黄金に輝いた。
フェルシェイルの肉体を取り巻く炎も、黄金に変わる。
「……火の鳥の精紋よ、その力を解き放て!黄泉の夜闇に眠りし者に、再び朝日の輝きを!」
真紅の光を放つ黄金の炎が、両手に乗る脳を包んだ。
「フェニクシア=リヴァイン!」
生命力に満ち溢れるフェルシェイルの黄金の炎に、観客が言葉を失う。
司会すら言葉を挟むタイミングをつかめないでいるようだ。テツヤすら暗い瞳で眺めている。
「全開ですね、フェルさん……!」
マルチェリテが熱を帯びた声で吉仲に話しかけた。
「ああ、相当気合が入っているな……」
吉仲は黄金の炎に釘付けになったまま頷く。
<でも……心配ねぇ。いくら精紋で無限に力を取り出せるとはいえ、あんな力を出し続けたら身体への影響が大きいんじゃないかしらぁ?>
ナーサの心配そうな声にマルチェリテが同意した。
しかし、集中したフェルシェイルは周りの反応などまったく意に介さず、蘇生魔法で血色が改善した脳をさばく。
脳の中でも味の悪い部位、食べられない部位を次々と切り分け水で洗っていく。
ジャイアントバットを使った時よりも速く、そして精密だ。
「おい、フェルシェイルはあんなスピードが出せたのか?なぜ今まで使って来なかったんだ?」
ベレリが吉仲に尋ねる。
「あー……」
「フェルさんがあの姿になったのは今まで見たことはありませんから、実戦で使うのは初めてなのかもしれませんね」
考える吉仲を見て微笑んだマルチェリテが、横から助け舟を出す。
<これまでずっと外に炎を出していたものねぇ。身体に使うのは新しく使えるようになっただけじゃなく、とっておきの切り札なのかもぉ>
ナーサの言葉をそのまま伝えると、ベレリは感心したようにフェルシェイルに視線を戻す。
「魔術師の料理人というのはうらやましいものだな……」
ガテイユがしみじみとつぶやいた。
イサが長年の修練の果てにたどり着いたスピードに、自分の三分の一にも満たない歳の少女が達しているのだ。
あのスピードで料理ができれば、料理をするうえで起こる問題の多くを解決できるだろう。
今のガテイユは本気で嫉妬するほど若くはないが、羨望を覚える程度に老け込んでもいなかった。
「フェルシェイル選手!おそるべきスピードで料理を進めていく!このスピードでいったい何を作るつもりなのか!?一方のテツヤ選手……は……え?」
赤い陽炎、そして火花を散らしながら料理をするフェルシェイルと対象的に、テツヤはゆったりとシーサーペントの鱗を剥いでいる。
「ずいぶんと……ゆっくりな動きですね……」
高速で動くイサとフェルシェイルは言うに及ばず、そういった特殊な能力を持たない、リヨリですら腹身の鱗は急いで取っていた。
最初の処理に手間取ると、後の作業にも影響するからだ。
だが、テツヤの動きに急ぐ素振りは見られない。