リヨリ対イサ、判定開始
「グリフォンの肝のオイル、宮廷料理の包丁技を駆使した料理!そして交互に食べることで、無限に後を引く味を実現させる!こんな料理が果たしてあったのか!?」
司会の言葉に観客が再び熱狂する。
マルチェリテは、不意に自分との戦いでリヨリが作った料理を思い出し、微笑んだ。
あの時の二足トカゲの天ぷらよりもクオリティは段違い、だが、リヨリの考え方の芯は変わっていない。
「さて!審査員の皆様!判定はよろしいでしょうか!?」
審査員が悩みだす。どちらも甲乙つけがたかった。
最高最速の技量で作られた、完璧なフルコースのようなイサの料理。
斬新奇抜な発想が産み出した、無限に食べられそうなリヨリの料理。
今までのどの料理よりも二人の技が、魂が込められている。だからこそ伯仲していた。
この料理の良し悪しを比べることなど、誰にもできないのではないか。
諦めるようにシイダがため息をついた。
「……私は、リヨリにいれるわ……勝因は、シーサーペントの肝を、あそこまで美味しく食べられたこと」
リヨリが小さくガッツポーズをした。
「どっちが優れているとかじゃないけど……本当に生まれてはじめての体験だったの。文字通り、衝撃だったわ」
イサも頷いた、文句はない。
リヨリが下手を打っていればシイダの票は自分に入っていたのだ。リヨリが行った綱渡りを考えれば、妥当と言える。
腕を組むガテイユが、口を開いた。
「私はイサの料理を推す。もちろんリヨリの料理も称賛に値する味だったが……」
ガテイユがイサの包丁捌きを思い出す。
流れるような紫の軌跡の冴えは、今思い出しても鳥肌が立つほどだ。
「あれだけの料理をこの時間で作り出す技量、そして最後の鱗の工夫。都で最高の能力を持つ料理人の称号を与えるとすれば、間違いなくイサだ」
イサは照れくさそうに頬をかいた。常に厳しく接してきたガテイユにそこまで言われると、どこかこそばゆい。
技術のことを言われると、リヨリも何も言えなかった。
「俺はリヨリだ。……まったく見たことの無い物、食べたことの無い物を食べてワクワクする。これに勝る物はない」
ベレリは相変わらず愉快そうだ。
マルチェリテは吉仲を見て考え、頷いた。
「……私はイサさんに入れます、ベレリさんとは逆の意見ですね。リヨリさんの料理は、私との勝負の時の思想と同じでした」
リヨリが、今はじめて気づいたような表情になる。
「もちろん、その時よりもクオリティは段違いでしたが……残念ながら料理を食べた時の驚きは薄かったです。イサさんの鱗の工夫が、一歩だけ先を行ってました」
吉仲がマルチェリテを怪訝な瞳で見る。
もしかしたら、最後の決着を自分に着けさせるつもりでマルチェリテはイサにいれたのか?
マルチェリテは静かに微笑むのみだ。
そして、その思惑とは関係なく、イサとリヨリの視線が吉仲に注がれた。