肝と油
シーサーペントの肝は、身体相応に大きく可食部が多い。
磯の香りを閉じ込めたような豊かな風味と旨味があり、人気が高い部位でもある。
一方で、その大きさゆえの生臭さも相応にある。
通常は牛や豚のレバーと変わらぬ血抜き処理を加え、細かく切り、香草や油をふんだんに使って臭みを消して食される。
また、シイダのように独特の磯臭さを生臭く感じる人間も多く、好き嫌いのハッキリと分かれる食材でもある。それがイサの八種盛りに採用されなかった理由だ。
しかし今までどんな有名店でも、熟練の料理人が調理した物もおいしいとは感じられなかったシイダですら、普段とは違う感想を抱いた。
はじめてシーサーペントの肝に生臭さを感じず味わうことができたのだ。
「お……おいしい……?」
昔、何度も食べてそのたびに嫌いになってきたシーサーペントの肝の味ではある。
だが、生臭さがまるでない。皆無なのだ。
「……ど、どういうことなの?」
シイダは混乱した。
レバーの深い血の風味、そして濃厚な味わいは感じられる。
そして肝心の磯の香りもするが、そこに不快な臭いはなかった。
「……これが、グリフォンの肝の効果なのか?」
目をつぶり味わった吉仲がリヨリに尋ねる。
リヨリは頬をかきつつ頷いた。自分でもあまり自信はなかったようなリアクションだった。
「グリフォンの肝の油は、本当にごく少量で効果十分だったみたいだね」
吉仲がもう一度味わう。
シーサーペントの肝は食べたことがある、食べたことのない風味がグリフォンの肝だとわかれば、識別はたやすい。
ただ、その量は意識を集中してはじめて感じられる程度だった。
「ごく少量って軽く言ってるけど……これ、ほとんど入ってないだろ……」
細心の注意を払い味わった吉仲が、驚くような呆れたような声を上げる。
食通達が目を見合わせた。
湯の中に入れたグリフォンの油は、投入されたシーサーペントの肝にも付着はする。
だが、それは料理に使ったというのも難しいほどに微量だ。
そんなに少なくて効力がある物か。
リヨリは照れくさそうに笑った。
「へへへ……それ以上だと多すぎて、グリフォンの肝の味が勝っちゃうんだよね。ちょっと失敗しちゃったし……」
最初に試した二回のソテーは実際に失敗だった。
試しに加えたソテーの油は、グリフォンの肝の風味が全てを上書きしていた。一滴ですら多かった。
「前にお父さんに聞いた、香り付け程度に茹で湯に油を入れる技法を思い出さなかったら危なかったよ」
野菜などを茹でる湯に、少量の油を入れることで発色を良くし風味をつける技法がある。その応用だ。
リヨリはシーサーペントの肝を、グリフォンの肝の油に潜らせてから茹でこぼすことで、臭い消し、マスキングをしたのだ。
リヨリが言葉を継ぐ。
「でね、香り付けの他に、もう一つ効果があるんだ」




