失敗
<ちょっと、リヨちゃんどうしちゃったのぉ?>
リヨリが完全に腕を止め、皿に乗った二枚の肉をジッと見つめている。
「どうやら、グリフォン肝のオイルは失敗だったみたいだな……」
ベレリが腕を組みリヨリを眺める。ガテイユが頷いた。
「オイルの旨味がシーサーペントの味を上書きした……という所でしょうな。肝その物でなく抽出した油を少量使うつもりが、それですら強すぎたと」
「……この土壇場で、いきなりグリフォンの肝を使う発想は面白かったんだけどね……やっぱり無茶だったのかしら?」
シイダも残念そうに同意した。これから料理を作り直すにしても、もはや肝オイルは使えないだろう。
一度失敗したアイディアから巻き返すのは、途方も無い労力を要する。
「リヨリさん……」
「リヨリ選手!大丈夫か!?グリフォンの肝を使った料理は幻に終わってしまうのか!?」
リヨリは厳しい表情だ。
焼いた肉と肝のオイル、そして調理台の上の食材を交互に見つめ、必死に考えを巡らせる。
だが、その瞳に宿す闘志は、消えてはいなかった。
「……いや、リヨリは諦めてないみたいだ」
吉仲が声を上げたと同時に、リヨリは動き始めた。グリフォンの肝オイルを指ですくって一舐めし、すぐに手を洗う。
そのまま氷水に浸けていたシーサーペントの肝を取り上げ、端の方を少しだけ切り出し、焼き始めた。
火の通ったシーサーペントの肝一切れを頬張り、再び考え込む。
「諦めていないとはいえ、残りの時間で料理を考え直すのはさすがに難しくないか?」
二試合しかない準決勝は、調理時間が今までより長めに取られている。とはいえ、すでに時間は半分近く過ぎ去り、新たにシーサーペントの下処理をする時間も無いだろう。
考えを巡らせたリヨリが決然と動きはじめた。
鍋を二つ用意し、片方にはたっぷりの湯を沸かし始める。
そのまま食材と調味料が置かれた棚に走り、香草と赤ワインを選び、戻った。
シーサーペントの肉をスライスし、別の鍋にオリーブオイルとにんにくを炒め始める。
「おっとリヨリ選手!二つの鍋で何をしようというのか!?」
リヨリは大きく深呼吸して、湯が煮えた鍋に、グリフォンの肝のオイルを入れた。
「な、何をしてるんだ?」
食通も観客達からも、ざわめきが起こる。
リヨリが混乱しているとしか思えなかった。




