帰還
ダンジョンクローラー達を先導と最後尾にして、吉仲とリヨリ、イサが戻る。
途中の道々には、倒したばかりの生々しい魔物達の死骸が転がり、ダンジョンクローラー達の激戦がありありと浮かぶようだった。
吉仲が安全に通ってきた獣道まで、魔物達の死骸で溢れていたのだ。
だが、三階層まで上がると、行きよりも時間が掛からなかったように感じた。
ヒーラーの老婆相手に、リヨリを回復した時の状況を説明しつつ歩いて来たからだ。
老婆は吉仲の説明に納得し、おたまを見つめる。だが、それきり何も言わなかった。関わり合いになりたくない、という印象だった。
一階層へ戻る。
念のため、リヨリとイサはヒーラーの老婆に詳しく身体を調べられることになり、二人は傷を負ったダンジョンクローラー達と共に奥に消えて行った。吉仲は、一人だけ取り残される。
二人がエクスポーションを飲んだこともあったが、吉仲だけはほとんど怪我らしい怪我を負わなかったのだ。
「……おい、こっちも大変だったんだぜ?アレは一体なんだったんだよ?」
放心状態で二人を見送る吉仲の腰の辺りから声がした。
下を向くと、ショートフォークの監視者が呆れた目で吉仲を眺めている。
「……ああ、ごめん。急で驚いたよな……」
「吉仲ってアンタだよな?最近噂になってる、美食王とかって大層なあだ名の」
吉仲が頷く。監視者の話によると、怒り狂った人々が吉仲を出せと殺到したらしい。
吉仲を追って乗り込んで来た観客達だろう。
屈強なダンジョンクローラーと言えど、怒れる大量の人間を無傷で制圧するのは難しい。
狭いダンジョン入口で小競り合いと押し問答が繰り広げられ、混乱が巻き起こり、緊急招集が掛かっていたにも関わらず準備が遅れたそうだ。それが救助が遅れた理由だと言う。
吉仲は入り口を眺める。今はそんな騒乱の跡など、何も残っていない。
さっきまで土砂降りだった雨も、小振りとなってきたようだった。
「そんなことが……その人達はどうなったんだ?」
「さあね。妙な臭いがしたかと思うとみんな突然冷や水ぶっ掛けられたみたいになってさ、馬鹿みたいに呆けた顔でゾロゾロとアリーナに戻って行ったよ」
監視者は気怠げな顔で吉仲と同じ方向を眺める。
「こっちはこっちで今いるダンジョンクローラー総出でアンタ達の救出に向かったから、その後のことは知らないね」
ミッションは完遂し彼は通常業務に戻ったが、何があったか調べる気は無いらしい。
ナーサとマルチェリテが対処してくれたのかもしれない。吉仲は、監視者に礼を言いアリーナに戻る。
アリーナに入って来た吉仲を認め、観客達がざわめく。吉仲が飛び出してから、まだ二時間程しか経っていなかった。
何を言われるんだろうと戦々恐々だったが、観客からの野次は無い。
相変わらず、アリーナは蒸し暑かった。
食通三人や王は座り、司会も近くに控えている。いくら探してもマルチェリテとナーサの姿は見えない。
観客達は全員、放心しているようだ。
吉仲が事情を聞こうと食通達に近づこうとした瞬間、後ろから聞き慣れた声がした。
「……吉仲さん、戻って来てたんですね。リヨリさんやイサさんは?」