崩壊
リヨリの手助けでボロボロとなったイサが立ち上がり、雄叫びを上げる。
左脚と左腕から、とめどなく血が溢れてくる。イサは血を振り払うように前へ進んだ。
「吉仲!もっかい行くぞ!」
慄く吉仲はその声に驚いた。イサが駆け出す。
「え!?も、もっかいって……!?」
グリフォンが困惑する吉仲から、イサにターゲットを切り替えた。
「俺の防御はいい!グリフォンの足止めもだ!……リヨリを!」
リヨリ?吉仲が咄嗟にリヨリがいた方を見る。しかしそこにリヨリはいない。
雄叫びを上げたイサがグリフォンに突っ込んでいく。
グリフォンが魔法を放つより早く、イサは左に跳躍した。
その姿を見て、グリフォンは翼を震わせた。吉仲にまで風が届く。
イサを追いつつ、魔法を放った。完全にイサの方を向いていて、吉仲には見向きもしない。
「吉仲!私を飛ばして!」
今までイサがいた場所に、リヨリが現れた。
イサの陰に隠れて一緒に走っていたのだ。その手には、玉虫色に輝く紫の長刀。
吉仲は、咄嗟に銀の杖を構え、リヨリの背後の空間に放つ。
「いくぞリヨリ!」
歯を食いしばり、跳躍したリヨリの背を力場が押す。
リヨリは背中を手の形をなさない無数の手で押されるような、くすぐったい感覚がした。
「食らいやがれ……」
イサが脚を止め、つぶやく。
危機を、魔力を察知したグリフォンが吉仲の方を見る。
正確には、吉仲を見る前にグリフォンの頭は止まった。
眼前に、今まで戦いに参加してこなかったリヨリが突如現れたのだ。
風も魔法も間に合わない、鉤爪も無理だ。もはや眼前に迫ったリヨリを前に、グリフォンは大きな声で戦慄いた。
リヨリも身体ごとぶつかり、刀をグリフォンの胸に突き立てる。
鮮血が飛び散った。
「やった!……え?」
一拍置いた後、グリフォンの身体がゆっくりと崩れ落ちる……はずだった。
グリフォンの獅子の脚が、ゆっくりと、しかし力強く大きく伸びる。胸に刃を突き立てるリヨリに向かって嘴を振り上げた。
「あぶない!」
吉仲がロープを投げた、頭と脚に巻きつく。
全開の力でロープが軋む。動きを止めなければ、吉仲の頭にあるのはそれだけだった。
グリフォンにロープに抵抗する力は無かった。
目玉からは血が溢れ、嘴にヒビが入り、脚は折れてバランスを崩す。
それでも、断末魔の唸りと共に、最期の力でリヨリに嘴を振り下ろす。自由落下と大差ない。リヨリは、歯を食いしばった。
リヨリの身体の陰となりロープの拘束を免れた鉤爪が、リヨリの腕を捉え、身動きが取れなかったのだ。
「リヨリ!」
グリフォンの巨体が崩れ落ちる。同時に、真っ赤に染まったリヨリの身体も倒れ込んだ。
 




