ぶつかる力場
グリフォンが姿勢を変えた。人間達の素振りで、攻撃が来ることを悟ったのだ。
いつでも迎撃できるよう、両翼を開く。左の翼の根本から血しぶきが舞った。
「イサさん!行くぞ!」
「おうっ!」
吉仲とイサが叫びを上げる。グリフォンは吉仲に身体を向けた。
吉仲はゆっくりと、斥力の盾を維持したまま、おたまで魔法符に触れる。
魔力の励起はグリフォンにも感じられた。だが、どこから何が来るかは分からない。今までに無い魔法の気配だったのだ。
グリフォンは辺りに気を研ぎ澄まし、魔力を感知しようとする。
「ぁぁぁぁああああ!」
吉仲がおたまを持つ手に力を込める。人間では到底出せない異常な魔力に銀の杖が悲鳴を上げた。
一気に炸裂させるイメージ。
急激に膨張した反重力場はグリフォンの身体を宙に押し上げる。
だが、今までのように押し返すような反発する力が現れたのではない。
空間から完全に何かが失われた。無重力となったのだ。グリフォンが困惑し、焦る。
跳躍したわけでも無く、翼を使わずに空を飛んでいる。鉤爪と後脚で空でもがくが何も掴めない。
空中で姿勢を維持しようと翼をはためかせる。だが無重力の場では反作用が自分自身にも直に掛かる。
グリフォンの巨体は姿勢維持どころではなく高速ですっ飛ぶのだ。グリフォンはさらに焦る。あの人間は、何をした?
「そこだ!」
おたまの力で暴走した防御力場がグリフォンの進行方向に張られた。
無重力化で身動きが取れず一直線に進むグリフォンが、全開となった逆方向に押し返す力場に衝突する。
吉仲はダメ押しに、銀の杖の反発力をグリフォンに向ける。まともに身動きの取れないグリフォンを、ようやく斥力が捉えた。
「よし!いいぞ!」
二つの力場に挟まれたグリフォンの身体がひしゃげる。生身の人間であれば、他の大多数の魔物であれば押し潰され、熟したトマトを落とした時のように潰れていただろう。
イサがグリフォンを見て、刃を構える。
「吉仲!防御力場が崩れる!」
リヨリの言葉で吉仲は杖の力を止めた。グリフォンが自由落下を始める。力無く、落下するに任せていた。
あとは間合いに入ったグリフォンをイサが切れば終わりだ。
――しかし。
イサの刃を前にグリフォンが身体を起こし、イサに向かって羽ばたきを起こす。
「何っ!?」
風の刃と空気の槍がイサに降り注ぐ。
グリフォンは身の危険を察知し、万力のように締め上げてくる二つの力場の中、風と空気の魔法で隙間を作り耐えていた。
戦闘不能になるには一歩足りなかったのだ。
イサが吹っ飛び、リヨリが駆け寄った。着地したグリフォンも膝を着く。
吉仲は銀の杖をグリフォンに構える。息も絶え絶えのグリフォンは、それでも吉仲を睨みつけた。
吉仲の動きが止まる。あらゆる攻撃が通用しないような気がした。