荒れ狂う嵐
グリフォンが再び翼を震わせる。第二波を撃つつもりらしい。
「危ない!」
吉仲が銀の杖におたまを突き立て、グリフォンを囲むように重力場を発生させる。杖を操るコツは、すでに掴んでいた。
グリフォン自身の体重が何倍にもなり、鷲の前脚が地面に膝を着く。後ろ足はもがくが、虚しく地面をかくばかりだ。
「……やったか!?」
動きを止められれば、そのままトドメを刺せば良い。だが、グリフォンの後脚はもがき、地面をかきつつゆっくりと立ち上がる。
体重が何倍もの重さになっているはずだ、だが、グリフォンを止めるには至らない。
力を込めて翼を振るい、吉仲に向けて突風を起こした。
魔力を伴わない風は力場の影響が少ないことを、最初の一撃で学んでいたのだ。
前回は魔法発動の副次的な物だったが、今回は最初から風が本命だ。斥力の盾ごと吹き飛ばさんとする、強い意志を持った突風が吹き荒れる。
「わっ!」
吉仲は全力の突風で体勢が崩れ、重力場の発動が途切れた。
グリフォンは狙いすましたかのように、自ら飛び込んでくる。
鷲の爪が吉仲を狙う。吉仲は恐怖で目を瞑った。
「こっちにもいるぜ!」
イサが輝く紫色の刃を横薙ぎに払う、グリフォンの翼が舞い散った。
「キエエエエエエエッ!」
攻撃の隙を狙われたグリフォンは左の翼に傷を負った。
翼を切断するには至らなかったが、脇にあたるホロ羽が破れ、血が滲む。
グリフォンが怒り任せにクチバシでイサを突こうとするが、距離を取ったイサには当たらない。
すぐさま空気の槍をイサに向けて乱射する。イサは逃げることに精一杯だ。だが、冷静にかわすイサに当たる事もない。
空気の槍が地面を掘り起こし、奥に生える木を、下生えの草花をめちゃくちゃにしていく。
吉仲は鞄を漁った。串を見つける。
すぐにおたまを突き立て、暴走させる。膝立ちの姿勢で、グリフォンに串を構える。
「これでどうだ!」
限界を超え槍のような長さと太さとなった串が、グリフォンの死角からギュンと伸びる。
反対の端は地面に突き立ち、串をしっかりと支える。先端が、グリフォンを狙う。
ヒポグリフにとどめを刺した時と同じ手だ。吉仲は行けると確信した。
グリフォンは、吉仲の方を一切見ずに跳躍する。
腹すれすれで槍が通過し、グリフォンは串を足場に空中で体勢を変え、吉仲の方を向く。
不思議な魔法道具が魔力を励起する瞬間は、察知できるようになっている。
そのタイミングさえ逃さなければ、もう一匹の人間は怖くない。
「げっ」
「吉仲!盾!早く!」
リヨリの声で咄嗟に串を投げ捨てた吉仲は、斥力の盾を発動する。
空気の槍と風の刃は吉仲の寸前で動きを止めた。吉仲は浅い呼吸であえぐ。一回一回の攻撃が間違いなく致命傷、一瞬の隙も見せられない。
地面にぶつかった串が弾けて崩壊した。
グリフォンは攻撃の手を休めない。着地の瞬間回転し、後ろにいるイサにも魔法を向ける。
「ちっ」
イサが横っ飛びで飛来する魔法をかわす。寸前まで立っていた地面が激しくめくれあがった。
「なんてヤツだ……」
斥力の盾の中、呆けたように吉仲がつぶやく。
グリフォンは、己が力を誇示するように雄叫びを上げた。