表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/375

謎の美女

リヨリがカウンターに近づき、石を持ち上げる。


「なになに?砥石?魔女貨幣?」


光沢がある乳白色で、大理石の石板(タブレット)のようにも見えるが、軽石並に軽い。


魔女貨幣だ。


通常それぞれの国で発行している紙幣や貨幣があるが、大多数の人間、特に国境近くに住む者は、国境に縛られず生きる魔女達が作り出した魔女貨幣を使っている。


人のオーラを媒介に通貨の情報をやり取りする、全世界共通の貨幣システムだ。

魔女達に手数料を支払うと、手数料に応じた金額が石板(タブレット)に書き込まれる。

そして石板(タブレット)同士でのやり取りで金銭の支払いや受け取りができる。


リヨリが石板(タブレット)に触れると、石板(タブレット)がほのかに輝き文字を示す。金額を表すこの世界の数字だった。


「え!?こんなに?」

そこに記されていた額は、悠に数ヶ月は遊んで暮らせるほどの額だった。


「オーナーからのお給料、だそうです。良い食材を仕込むのに使えとのことです」


「……お給料……ねぇ、うん、まあありがたく使わせてもらうよ」


リヨリは口では微妙な雰囲気を出そうとするが、その顔は満面の笑みだ。

これで色々買える、老人たちの食費だけでは店を賄うのは正直難しかった。トーマも微笑みながら出口へ向かう。


「では、私はこれで」


「もう帰るの?お店は手伝ってもらうけど、明日までゆっくりしてけば?都の新しい食材の話もっと聞きたいし」


「ふふ、師からは勝っても負けてもすぐ戻って来いと言われました。あまりリヨリさんに情報を教えるなとも。私はお人好しらしいですから、これから送り込まれるライバルの情報も教えかねませんしね」


「え!?知ってるの?」

「私に発破をかけるために、イサ師の知人の料理人の名を言われただけですよ。錚々たるメンバーでしたが、私もその中に入り込める実力はあるのだと……おっと、早速喋り過ぎましたね」


トーマは笑いながら、入り口に立つ。来た当初の張り詰めた空気は無く、清々しい表情をしている。

「気をつけて帰れよ。また美味いモン食わせてくれ」


「ええ、次は私が驚くような料理を作ってみせます。それではまた。次は、負けませんよ」

「私だって負けないよ!」

リヨリは大声で笑った。


「それでは、また」


来た時と同じく、折り目の正しいお辞儀をしてトーマは店を出ていった。



勝負から、二時間ほどが経過した。


「いやはや、今回も良い勝負だったのう」

「ああ、白熱してたよ。しかし乾燥スライムねぇ、そんなもんが食えるとは思わなかったな」

「本当だよー。知らない材料でどうしようかと思ったもん」


老人達も帰り、残ったカチと吉仲がお茶を飲んでいる。リヨリも仕事の手を休め、お茶の輪に加わっていた。


「しかもそのスライムを麺にして食うとは思わなかったなぁ。そろそろ小腹が空いても良い時間帯なのに、まだ満腹感があるよ」

吉仲は腹をさすった。カチは同感を示すように頷いた。


「今晩は晩飯無しでも良いくらいだの……おや?」


入り口が見える位置に座るカチが最初に気付いた。来客のようだ、ゆったりと扉が開く。


「どーもぉ、リヨちゃん元気ぃ?」


入り口の前に、気だるげな美女が立っている。

ウェーブのかかった濃い紫の髪は光を反射し艶やかに輝き、大きなフードで受け止められている。全身に黒装束をまとっているが、身体の各部に身に付けた金細工のアクセサリーが身体のラインを浮き立たせてどこか色っぽい。そして、細身の身体に似つかわしくない大きな革の肩掛け鞄。


三人の視線が美女に集中した。

「……またやるのか?一日二回戦?もう入らないんだけど……」


吉仲が、美女を見て呟いた。料理人にはとても見えない。美女は、クスクスと笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ