仲間たち
「……結果的に、大失敗だったな」
全てが終わった後、オリバーが苦々しく呟いた。カヌタヌは憔悴し切った表情で俯いている。
「本当に、なんとお詫びしていいか……運営の者は誰も愚息の行動を怪しまなかったようです……本当に……」
渾身のイベントに泥を塗られて、カヌタヌも怒りと悲しみがないまぜとなっているようだ。
やりきれない感情が老人を一層老け込んだ表情に変える。
「で、でもさ。最後の問題以外は答えられたんだし……」
吉仲はフォローしようとするが、言葉に詰まった。
実際、自分でもそれまでの全問正解より、最後の失敗の方が勝る。
舞台裏を何も知らない観客からしたら、その印象はより強いだろう。
「……カヌキは頼まれたって言ってたけど、やっぱり……噂の主だよな……」
オリバーが頷く。ミジェギゼラの顔が頭に浮かんでいたが、確証が無い以上はカヌタヌの前ではその名は出せない。
またカヌタヌとしても、仕込んだのがカヌキだったと観客達には言えなかった。
全てを説明しようとすれば、語るべきことが際限なく増えていく。そんな状態では疑惑は深まるだけだろう。
吉仲達が考えるよりも、罠は深く張り巡らされていたのだ。
やつれたカヌタヌと別れ、ナーサ、マルチェリテと合流する。
二人は吉仲とオリバーの表情から何が起こったか察したらしい。
「そうですか……カヌキさんが……」
「でもぉ、つまりカヌキは吉ちゃんが今日ここに来るのを知ってたってことぉ?」
ナーサがオリバーを見る。その瞳には疑惑の色が浮かんでいた。
「なるほど……そういう視点で見れば、たしかに俺も十分に怪しいな」
オリバーはナーサが言わんとしていることを察し両手を上げる。
吉仲を今日この場に誘ったのは他ならぬオリバーで、それもつい今朝の話だ。
正体を知らない二人にとっては、噂の主に負けず劣らぬ怪しい人間だったろう。
「オリバー……アンタのこと、二人には話しても良いよな?」
オリバーが周りを確認し、諦めたように頷いた。
吉仲の説明で、二人は納得したようだ。
王宮の密偵だろうことは察しが着いていたが、さらに王直属の影武者で、吉仲に王家の身分証を渡すほどの協力関係を築いたことは強い説得力があった。
「イベントの話自体は前々から知っていてたんだ、せいぜい客として冷やかすつもりだけだったけどな。……ただ噂のこともあって、三日前、急遽カヌタヌさんに今回のことを持ちかけたのさ」
もっとも正体を知る人間が増えたことで、オリバー自身もかなり落ち込んでいるらしい。
ナーサとマルチェリテが軽々しく誰かに話すタイプじゃないのが分かっていても、今まで誰にも言わなかった秘密を教える羽目になったのは、ひどい失敗を起こした気分だった。
「カヌキは料理人だが、市場との関わりも深い。この話を誰かから聞いていてやったんだろうさ……まさか、俺の行動まで利用されるとはな……」
オリバーが俯く。ナーサはオリバーの言葉に対し、何かを考えるように視線を彷徨わせた。
「……うーん、そうねぇ。カヌキにとっては昨日の結果に対する腹いせでしょ?アックスビークの肉をそんなすぐに用意するのは、いくら組合長の息子とはいえ難しいんじゃないかしらぁ?」
「たしかにそうですね。ダンジョンに生息しない魔物の肉は、一朝一夕じゃ手に入りません。カヌキさんが負ける所から計画していた……というのも、ちょっと考えにくいですよね」
マルチェリテが頷く。
吉仲はよく分からない表情になるが、オリバーは驚いたように二人の顔を交互に見つめた。
ダンジョンから調達できない魔物肉は海路か陸路で、数日から数週間掛けて取り寄せなければいけない。
ヒポグリフのようにそう遠くない距離に生息地があればさほど難しくもないが、アックスビークは海を隔てた隣国に棲む魔物だ。
「そうか…‥…たしかにアックスビークを手に入れられる人間は限られている。カヌキを締め上げるより、そっちを探った方が大元に近づきそうだな。……感謝するよ聡明なレディ達、俺の正体を知られたのも無駄じゃなかったらしい」
オリバーは言うが早いが、あいさつもそこそこに港へ向かって行く。
吉仲は、頼もしい仲間を持ったことを嬉しく思った。