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スライム勝負決着!

満腹だと言っていた老人達の、箸が上下に動き続ける。


「たしかに!スープ味のスライムに、チーズを絡めたりスイートチリソースを絡めたり、色々な味わい方ができて楽しいねぇ!」

「うむ、最初に見た時は重くて食べられんかと思ったが、味わいに差がよく付いてて、スルスルと食べられるわい」


皿を出された直後とは裏腹に、全員がリヨリの料理を美味しそうに味わっていた。

リヨリはその様子を見て、自慢げに笑った。


「一か八かだったけど、大体は思い通りに行ったようだね。スライムを乾燥したまま極細の桂剥きにして、スープに入れたら麺になるんじゃないかなって。……まあちょっと太かったけど」


「で、では、この弾力は!?スライムの歯応えとは全然違う!」


「麺はコシが命だってお父さんが言っててね。締めるための水で戻したから、外側だけ固まって芯には硬い部分が少しだけ残ったんだよ。これは半分狙ったけど、半分はたまたまだね。それが出せるかが一番の賭けだったんだ」


イタリアでは、パスタは茹で加減の調整により芯が若干残ったアルデンテの状態が最上とされている。その後の調理の間に加えられる余熱で、芯がほんのり柔らかくなり、ちょうど良い歯応えを産むのだ。

また、中華麺はかん水を加えることで弾力が産まれ、うどんなどとは違う独特なコシが産まれる。


スライム麺は極細に桂剥きにし、締めるための石灰塩水で茹でることで麺状に戻るが、水分が浸透しきらず少しだけ芯の硬い部分が残り、それが歯応えを産んだのだ。

最初と最後では茹で加減に差が産まれるが、スライムは、茹でて熱を加えるのではなく水で戻す物だから、熱の影響はほとんど無い。


トーマのスライムを茹でた物は餅やすいとんに近く、リヨリが作った物はコシのあるパスタやラーメンに近いと吉仲は感じた。しかしリヨリの料理も完食し、とにかく満腹だ。思考がうまくまとまらない。


「……判定は?」

「うーん……」


トーマの料理はたしかに美味かった。郷愁もあり満足感があった。リヨリの料理は美味いうえに驚きと楽しさに満ちていた。今は、二つの料理で腹も心も満たされている。


「……うん。リヨリの勝ちだ」


リヨリは嬉しそうに両手を上げて、トーマは悔しそうに口を噛み下を向く。老人達は半々に分かれていた。

トーマの懐かしさと柔らかさを推す者、リヨリの食べ応えと楽しさを推す者が、満腹感と戦いながらもそれぞれの意見を言う。しかし皆、はっきりとは考えがまとまらないようだ。


「まあ、実際トーマの料理は美味かったし完食した時点で満腹で、リヨリの料理は入りそうに無かったんだよね。でも一口食べてみれば驚くくらいスルスル入ってさ、まるで空腹だったみたいに食べれた。強いて言えば勝因はそこかな。今は、もう、限界……」


気を抜くと、そのまま寝てしまいそうだった。それくらい満たされている。


「スライム麺を食べた時に気づいてました。例え吉仲さんが私が勝ちと言っても、納得できなかったでしょうね……」

悄然としながらもトーマが呟く。イサとの戦いで同じ気持ちを味わったリヨリは、すごく共感ができた。


「私だって、乾燥スライムなんて初めて見たから、普通に料理しても勝てないと思ったんだよね。どんな形にできるか考えて、リンゴの皮みたいに剥いていけば麺にならないか思いついただけだから、たまたまだよ」


リヨリはうなだれるトーマの肩に手をかけ、微笑みかける。

「リヨリさん……いえ、私の完敗です。イサ師は、あなたのお父さんの情熱と発想が敗因だと言ってました。私もまた、あなたの発想に敗北したんです」


トーマは微笑む、かえってスッキリしたようだった。調理場の片付けをして、そのまま旅支度を整える。といっても前掛けと包丁、食材を入れてきた袋をしまうだけだったが。


吉仲は、何かとても良い話を聞いた気がした。

老人達は春の陽気の中、うつらうつらしている。

「あとこちらを。イサ師からです」

トーマは、手のひらサイズの石版をカウンターの上に置いた。



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