二回戦終了
「もちろん、別の魔物を使うのは悪いことじゃない。だけど、それが味のメインになっているのはテーマにそぐわないと思うんだ。……まして、ミミックだなんてごまかすのはな。だから、俺はフェルシェイルに入れる」
吉仲のセリフに、カヌキが唇を噛みしめる。その表情が、全てを物語っていた。
厳しかったフェルシェイルの表情が和らぐ、勝機が見えたためだ。
「まさか!カヌキ選手の料理はミミック以外の味わいが元だったとは!誰も気づかなかった細かな違いを見抜く!まさしく美食王の味覚だ!」
司会の言葉に、観客が盛り上がる。
吉仲に悪印象を抱いていない観客達が喝采を上げたのだ。
「……ミ、ミミクリーヴォも、かつてはミミックと呼ばれていただろう!問題はないはずだ!」
カヌキが必死の叫びを上げる。
「一理あるかもね。だけど、それなら最初からそう言っておけばよかったのではなくて?」
「それに、ミミクリーヴォを現代でもミミックとみなすのは難しいと思いますね……」
シイダとマルチェリテはカヌキの言葉を否定する。
味わいが似ていようと亜種ですらない、完全に別種の魔物だ。カヌキ自身それはよく知っている。
そこを突かれると脆い。だからこそ秘していたのだ。
「……やはり、私もフェルシェイルに入れよう。課題のミミックを十全に調理したのは、フェルシェイルだ」
ガテイユの言葉に、ベレリが頷く。勝負は決した。
「そんな……!ガテイユさん……!」
カヌキはもはや泣き笑いの表情だった。
「……カヌキ、味は素晴らしかった。だが、もう一度初心に帰り、修行をやり直すんだな」
ガテイユの一言に、ガックリと頭を垂らした。その様子を見て、司会が頷く。
「勝者!フェルシェイル選手!」
観客が一際盛り上がる。
フェルシェイルはほっと胸を撫で下ろした、相手の料理が本当にミミックだったら、ここで終わっていたのだ。
吉仲も、フェルシェイルと同じように安堵のため息をついた。
「助かったよマルチェ。ミミックと違うことは分かったけど、なんて魔物かまでは分からなくてさ。違うけど何かは分かりませんじゃ、カッコ付かないもんな」
「それを言えば私も……甲殻類の風味なんてまったく分かりませんでしたよ。本当にすごい舌ですね」
マルチェリテが苦笑する。
食通達も呆れたように吉仲を眺めていた。見た目は冴えない若者なのに、この想像を絶する味覚はなんだろう。
同時に、肩を落とし去りゆくカヌキと入れ替わりに、リヨリ、イサ、テツヤが入ってくる。
「これにて二回戦は終了となります、都の四強に今一度盛大な拍手を!」
万雷の拍手の元、全員がアリーナの中央に立つ。
次は準決勝、リヨリ対イサ、そしてテツヤ対フェルシェイルの二戦のみだ。
イサがリヨリに話しかける。
「妙なことになってるみたいだが、いよいよ俺との勝負だ。気を抜くんじゃねぇぞ」
その言葉に、最初の侮りも、いつもの戯けもない。正真正銘の真剣勝負を挑む言葉だ。
リヨリは真剣な瞳でイサを見返す。
思えば、はじめての料理勝負以来の再戦だ。恩人と言えないことも無い、だが本気のイサに自分の料理で勝ちたいと、身体が熱くなる。
一方のフェルシェイルも厳しい瞳でテツヤを見つめる。
間違いなく、都で一二を争う料理人だろう。今回のように相手の料理が審査員の心を掴んでいたら?
不安を拭うように、闘志を掻き立てる。
テツヤもフェルシェイルを見返すが、その瞳にはなんの感情もこもっていない。何も見ていないのも同然だった。
――アタシなんか、眼中に無いってわけ?
テツヤの反応に、フェルシェイルは怒りを燃やす。絶対に勝ってみせると、不安を焼き尽くした。
「準決勝の食材は、当日の発表となります!お楽しみに!」
初戦のキマイラは当たり肉の味わいを引き出す勝負、二回戦のミミックはあまり知られていない食材での勝負だった。
準決勝は、当日知らされる食材に、技術と知識と発想、全てをもとめられることになるだろう。
火花が散ったまま、料理大会二回戦が終わる。




