ミミックの味
「お……おいしいですね……」
「ええ、まるで、今まで食べてきたどのミミックよりも味が際立っているみたい」
マルチェリテとシイダがようやくそれだけを呟き、また食べはじめた。
「カヌキ選手!ここでベテランの貫禄を見せつけた!最後の審査にして、審査員は今日一番料理に食いついているぞ!」
カヌキが、照れたように頭をかく。
あっという間に完食した食通達は、全員が恍惚の表情を浮かべていた。
「それでは、皆さん、どちらか判定をお願いいたします!」
司会の言葉に、食通達が思いを巡らせる。
「……どちらか、か。フェルシェイルの刺身も素晴らしかったが、カヌキの旨味は……」
「うむ。リヨリの料理に似ているようで、味わってみればまるで似ていなかったな」
「もしかしたら、リヨリやテツヤの料理よりも……」
食通達のリアクションを見て、フェルシェイルは厳しい表情だ。
「…………」
吉仲は一人、何かを考えているような顔をしている。
「さあ!いかがでしょう!?」
「うむ、この勝負の勝者は、カ……」
「……ちょっと待ってくれ。俺から良いかな」
カヌキ、と言い切る前のことだった。
口火を気るガテイユを遮り、吉仲が言葉を発した。ガテイユは戸惑った表情をしつつ頷いた。
吉仲は、平然としている。
「この勝負のテーマ食材は、ミミックだろ?じゃあ悩むまでもない。フェルシェイルだ」
「……え?」
事も無げに言う吉仲を、食通達が驚きの表情で見つめた。
観客のざわめきが、次第にどよめきに変わる。再び野次が起きそうな不穏さが会場を支配していく。
カヌキのにこやかな微笑みが、はじめて曇る。
「ど、どういうことですか吉仲さん?ミミックは無かったとでも?」
司会が驚いた声で吉仲に近づく。吉仲が首を振った。
「いや、もちろんミミックは使われていたよ。麺や貝柱、あんかけの肉としてはね。その旨味もあった、でもメインの味になっていたのは別の魔物だ」
「え?」
「ミミックの味の幅は広いけど、これは絶対に違う。甲殻類の風味が混ざっているよ」
「……こ、甲殻類?そんなバカな……」
ガテイユが、スープだけを味わう。しかし、熟練の彼の舌にもまったく違いは感じられない。彼の知るミミックの味だった。
だが、観客や周囲になんと言われようと、吉仲には絶対的な確信がある。
晩餐会の時のマンドラゴラを思い出す、ここは引かない自信があった。
カヌキが、口を噛みしめ吉仲を睨む。その表情に、もはや柔和さは残ってはいなかった。
「……ミミクリーヴォ……」
ハッと思い出すように、マルチェリテが呟いた。