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蘇生

からまった腕をひっくり返すと、美しい焼き目が付き、ミミックの腕が一つに固まっていた。

反対も焼き、同じ工程を人数分繰り返す。


「さあカヌキ選手、どうやら順調に料理が進んでいるようだ!対するフェルシェイル選手、まだ動かないつもりか!?もうそろそろ時間が厳しいぞ!」


「解体時間を考えると、炙り焼きをする時間は無いが……」

「フェルさん……」


ガテイユとマルチェリテの心配に反して、フェルシェイルに動く様子はない。


カヌキが人数分の焼いた腕を皿に盛り、最初に炒めた鍋にダシ汁と、持ち込んでいた瓶の黒い液体を投入しよく混ぜる。


「……あ!あんかけかた焼きそばか!?」


その様子を見ていた吉仲が、ある料理を思いつく。


吉仲の声を聞いたカヌキの口角が上がる。やはり麺だったのだ。


どうやらフェルシェイルは動かないようだ、料理がバレても負けることはあるまい。カヌキはそう考えつつも、手を緩めない。

白い粉を水に溶き、火を止めて回し入れる。鍋の中でとろみがつきはじめた。


同時に、フェルシェイルが動き出す。


作業台に置かれてすらいないミミックの前に立ち、精神を集中させるよう深呼吸を行う。

ミミックは蓋が開いているが、閉殻筋で繋がっているため半開きだ。


両手を大きく広げる。炎の翼が手の先から舞い散った。


フェルシェイルの身体の周囲に陽炎が立つ。熱気が凝集しているのだ。

吉仲達、審査員席にまで熱気が当たる。


「……火の鳥の精紋よ、その力を解き放て……」


宝箱に収まった肉塊を凝視しつつ、フェルシェイルが呟く。コックコートの厚い布ごしに、火の鳥の精紋が輝いた。

赤い光を放つ、羽ばたくフェニックスの姿がハッキリと見える。


「黄泉の夜闇に眠りし者に、再び朝日の輝きを……」


フェルシェイルがまとう炎、そして火の鳥の精紋が、黄金色に変わる。


「まさか……」


吉仲の言葉に、マルチェリテが頷く。フェルシェイルが両手をミミックにかざした。


会場中の視線が、フェルシェイルに集中した。カヌキすら腕を止め、フェルシェイルを見る。


「フェニクシア=リヴァイン!」


ミミックが赤い光を放つ黄金の炎に包まれた。


全開の不死鳥の力で、ミミックが蘇生する。


一瞬胃が蠢き、二本の触腕が目の前に立つフェルシェイルを捕まえようと素早く伸びる。

あるいは、もがいていていただけかもしれない。


解放した火の鳥の精紋は、死者の魂を生まれ変わらせる。

生前の記憶も縁も、全てを失い別人となることと引き換えに蘇生を果たす。


だが、そこに傷を癒す力は無い。ミミックの心臓に空いた穴はそのままだ。

腕の振りに合わせて、傷口から体液が噴き出した。


それでも持ち前の生命力で腕を動かすが、高熱を帯びたフェルシェイルの身体を掴むことはできなかった。

フェルシェイルの熱に焼かれ、腕は力を失う。


「ミミックが蘇ったぁ!翔凰楼名物、フェルシェイル選手の蘇生魔法だぁ!」


司会の驚愕の叫びに合わせて、アリーナが盛り上がる。


「め、名物ってどういうこと……?蘇生って?」


シイダとベレリが目を白黒させてフェルシェイルとマルチェリテを見比べる。彼女達はフェルシェイルの真の力を知らなかったのだ。


「フェルさんだけが使える、火の鳥の蘇生魔法ですね。ミミックを復活させ、鮮度を蘇らせるんです」


「翔凰楼ではたまにやるみたいだよ。前に俺も、あれで蘇らせたジャイアントバットの脳を食べた」


<うーん、また見れるとは思えなかったわぁ>


吉仲とナーサはリヨリとの勝負で見て以来だ。一ヶ月しか経っていないのに、ずいぶん昔のように感じられる。


「炙り焼きではなく蘇生とはな……となると……」


ガテイユは話に聞いたことはあるが、見たのは初めてだ。

食材を蘇生させる。正しく使えば料理人にとって、これほど強力な能力はない。



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