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燃えるミミック

次の勝負にいたっては、リヨリの時の騒動など忘れたように観客は熱狂していた。


「テツヤの料理には驚いたな……」


「まったく。あの美しいミミックを丸ごと焼いて、あまつさえ殻を砕くなんて」


「……ええ。ですが、恐ろしいまでにうまかった」


試食を終えたベレリが呟き、シイダとガテイユも頷いた。シイダは呆れた声をあげるが、そこには隠しきれない満足の響きが含まれている。


テツヤは、割り当てられたミミックの胃袋に調味料と香草を詰め込み、酒を振り蓋をして、そのまま油をかけて燃やしたのだ。

その暴挙には誰もが狂ったのかと思った。最も美しい、宝石のようなミミックだったのだ。


だが、そんなことは死神には関係なかった。


炎に包まれるミミックを暗い瞳で、調理時間ギリギリまで見つめるだけだ。そして水を含ませたボロ布をかけ火を消し、中のミミック肉を切り出す。


そして無残に燃え残った、見る影も無く焦げ付いた殻を砕き、それを皿として提供する。


殻ごと炎に掛けられたミミックは、酒で蒸し焼きにされ、調味料と香草の風味と共に味が全体に行き渡っている。料理としては貝焼き(かやき)という郷土料理に近い。


少しでも火力が弱いか時間が短ければ、生の部分が多く味が落ちる。少しでも火力が強いか時間が長いとミミックの肉は硬くなる。


テツヤの料理は、最適な蒸し焼き具合を達成していた。柔らかく、それでいて火が完全に通っていたのだ。

熱の残った殻は料理を冷やすことなく、最後まで熱々の食べ味を保つ。


キマイラのシチューの時もそうだったが、大雑把に見える調理法に、繊細な技術が裏打ちされている。


試合が、順調に消化されていく。


そして今は、本日最後の勝負、フェルシェイルの戦いになった。対戦相手は都の有名店に務める熟練料理人カヌキだ。

白髪混じりの垂れ目の中年で、おっとりとした、人の良さそうな顔をしている。しかし、料理の腕前はガテイユの折り紙つきだ。


「フェルさんはどうするんでしょう?まさか炙り焼きということは無いと思いますが……」


<フェルちゃんの炙り焼きなら、それだけで勝てそうだけどねぇ>


マルチェリテとナーサの言葉に、吉仲が頷く。だが、ここまで凝った料理の中で、炙り焼きはいかにもインパクトが薄い。

今までの料理でハードルが上がっているのだ。


対戦相手のカヌキがミミックの解体を行う。

最終勝負まで来ると、他の料理人の手並を見ることで、触ったことがなくても解体の方法が分かる。

それが後の方に調理するアドバンテージでもある。


一方のフェルシェイルは腕を組み、目を瞑ったまま動かない。



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