二回戦判定
「それでは、判定に入っていただきましょう!」
判定を求める司会の声に、満足感を味わっていた食通達はハッとする。
最高級の美食の対価は、どちらかに優劣をつけることだ。
そして、目の前の丼と、金で縁取りされた皿を眺める。
リヨリのミミック尽くしラーメンか、トーリアミサイヤ王女の超秘料理、凍てつく宝玉か。
単純なミミックの味わいであれば、よだれを溢れさせるほどの王女の料理の方が上だろう。調理中や食前も含めたパフォーマンスや美しさも素晴らしい。
だが、リヨリの料理の味わいも決して負けてはいない。よくダシが染みた麺をスープと共にすすらせるあの新食感は、今まで味わったことのない面白みがある。
ガテイユは腕を組み目を瞑る、マルチェリテは視線を宙に彷徨わせる。ベレリは顎に手を当て唸り、シイダはじっと二つの器を見比べている。吉仲は、頭を抱えていた。
文字通り優劣つけ難い料理に、優劣をつけなければならない。それも、両者が納得のできる形で。
誰も、一言も発しない。司会が戸惑った。
「あのー……いかがでしょうか?」
「……うむ。やはり……トーリアミサイヤ王女殿下だ」
司会の言葉をきっかけに、ガテイユが意を決して呟いた。
「……リヨリの麺も大変素晴らしい工夫だった。……だが、幻とされている宮廷料理の美しさ、そして魔法符を使いさらなる美味に昇華させた技術に軍配を上げたい」
マルチェリテが頷き、後に続く。
「私も王女様です。勝因は零下砕きがただのパフォーマンスではなかったこと。食材の形を加工し、瞬間冷却によりドリップを出さず、さらに口に入れる直前まで凍結を維持する一石三鳥の工夫と、それにより生まれる味わい。……とても見事でした」
トーリアミサイヤ王女が満足そうに頷く。アリーナが熱狂する。
一気に二人のリードを奪われ、リヨリが歯を食いしばる。ベレリが、ゆっくりと顎から腕を下ろした。
「……俺はリヨリに票を入れよう。王女殿下の料理も無論うまかった……だが、あのスープを丸ごとすするような麺の工夫はどうだ?今まで食べたどの美食よりも楽しかったぞ。痛快と言っても良い」
愉快そうにベレリがリヨリを眺める。
リヨリが小さくガッツポーズをした。まだ、勝負は決まっていない。
「私は……」
シイダが口を開き、すぐに口籠った。
「構いませんシイダ、あなたの入れたい方に入れなさい」
王女は、自信に満ち溢れた微笑みを崩さず、王家の威厳を持ってシイダに語りかけた。
その瞳には、星が輝いている。
「……申し訳ありません、殿下……私は、リヨリに入れます。殿下の料理は……大変お美しく、それでいて美味しゅうございました……ただ、本来コースの一品であり、前後の料理の流れを含めて判断すべきかと……」
シイダの言葉に王女の笑みが一瞬消えるが、すぐに再び笑みを浮かべる。
「リヨリの料理は、一品で完結していました。……わずかでしたが、私はその差を尊重したいと思います」
言い切ったシイダは、疲れ果てたように深くため息をつく。
実際はコースの一品かどうかなんてあまり関係ないかもしれないと、言い終わった後でぼんやりと感じた。
トーリアミサイヤ王女はシイダに微笑みかける。
「これまでの判定は二対二!後は美食王、ヨシナカ様の判定を残すのみだ!さあ、いかがでしょう!?」
吉仲は胸が苦しく感じた、最後の判定はいつも恐ろしい。自分の判断が、言葉が、勝者と敗者を分けるのだ。
アリーナ中の空気が、重くなるように感じた。