超秘料理
凍てつく宝玉とは、技術を尽くした包丁細工を入れ湯通したミミックを凍らせ、球体に形作る秘料理だ。
他国の王族クラスを招いた夏の晩餐会で、メインとして食べられる。通常、前菜として出されるはずの冷菜がメインに昇格しているのだ。
飾り切りの過程で隠し包丁を入れ、極めて短時間の湯通しをすることで風味を出しやすくしておき、凍結させることで細胞を破壊し旨味を閉じ込める。
提供の時間に合わせ、美しい宝玉が割れ料理が現れる趣向。そして、隠し包丁と湯通し、凍結による特別濃厚なミミックの味わいを楽しめる。
吉仲が、よだれをすすりつつ、口の中の料理を飲み込む。
自分のよだれすら濃厚な味わいになったような感覚だ。
「う……うまい……」
呟かずにはいられなかったその一言に、トーリアミサイヤ王女は満足げに頷いた。
「これが……秘料理の味……」
次いで言葉を発したシイダに向かって、王女は首を振った。
「ふふ。いかな秘料理とはいえ、食べる者がはしたない姿を見せるようなことはありません。これは、私なりに改良を重ねた特別製、言うなれば超!秘料理です!」
「超!秘料理!?秘密のベールに包まれた宮廷料理の中でも、より秘密ということかっ!?」
司会の叫びにアリーナが熱狂する。
本来の凍てつく宝玉は、ミミックを宝玉に見立てた冷菜だ。
味わいよりもむしろ見た目の美しさが優先される。ミミック自体が十分にうまいために成り立っている料理だ。
誰も知る由も無かったが、トーリアミサイヤ王女が作った料理は本来の物よりもうまい。それも、よだれが溢れ出すほどに。
「……魔法符の……力、ですね」
マルチェリテが口をもぐもぐさせつつ、言いにくそうに呟く。吉仲のように豪快によだれをすするのは恥ずかしくてできない。
「その通りです、さすがはマルチェリテ女史。零下砕きの力は、ただの見せ物ではございませんの」
通常は冷凍用の蔵に入れることでゆるやかに凍結させていくが、王女は零下砕きの魔法符による瞬間的な冷凍・破砕を実現させた。
瞬間冷却されたことで凍結・解凍時のドリップは生じず、さらに『粉砕』の副次的効果で細胞の芯まで壊し、口に入れた瞬間に味わいが溢れだしたのだ。
あらかじめ入れておいた隠し包丁のため、破砕される形は食べやすいサイズになるよう工夫されている。
さらに通常は球体を形作ってから、蔵で完全に凍らせる。
それを半解凍に持ち込むことで自壊の時間を調整するが、その際わずかなドリップが出てきてしまう。
対して王女は、個々の部品を瞬間凍結してから組み上げることで時間調整をしている。
組み立てる際の手の熱で、リヨリの試食時間すら計算づくで割れるよう微細な調整していたのだ。もちろん、口に入れるまでドリップは出てこないため、全ての旨味を逃さない。
「蔵では出来ない瞬間冷却で、この味わいが生まれているのか……」
魔法符の使用は、あらゆる面で合理的な調理法と言える。ただし、使うための費用は別だが。
食べ終わった食通達全員が、幸福のため息をついた。
「宮廷料理の繊細にして優雅な調理技術、そして魔法符をも使った豪快かつ計算し尽くされた仕上げ、あらゆる面でハイクラス!ハイクオリティな料理だ!さすがは第二回戦、緒戦からハイレベルな戦いだ!」
司会の言葉に、観客が再び歓声が上がる。