凍てつく宝玉
「続いてはトーリアミサイヤ王女!……の、これは……」
司会が王女の料理をしげしげと眺める。王女のたおやかな細指がミミックパールのような球体を、それぞれ審査員の前に並べていく。
「さて、私の料理ですが……」
王女の言葉と完全に一致したタイミングで、目の前の球は軋むようなかすかな音を立て、ヒビが入る。
「え?」
食通達がそれぞれ自分の前に置かれた球体を注目する。
見る見る内にヒビは徐々に深く、広くなっていく。あわせてヒビの割れる音も徐々に強くなり、ついに球体は粉砕された。
同時に美しく飾り切りされた色とりどりのミミックの欠片が、皿の上に広がる。
「おお……!」
審査員、そして観客達が同時に驚きの声を上げた。リヨリも感心したように見つめる。
「なんと!美しい宝石が割れ、中からミミックの飾り切りが姿を現す!これが宮廷料理か!?まさしく食べる芸術品だ!」
「これは……宮廷の秘料理、凍てつく宝玉……」
シイダが驚愕に思わず呟く。貴族に生まれ育ち、幾度となく宮廷で会食を重ねて来ても、食べられない料理は多い。
そういった料理の中でも特に出される機会の少ない、珍しい物は秘料理と呼ばれ、たまたま食すことができた食通の貴族にとってステイタスとなっている。
噂好き、自慢好きな貴族達すらも口を憚り、密やかに語る秘密の料理たちだ。
誰かのスキャンダルや国家機密などではない、たかだか料理。だが、宮廷の長い歴史の中で、その料理の内容はおろか名前すらも市井の者が耳にしたことは一度も無い。
それが今、満員の観衆の中、白日の下に晒されている。シイダは無性に恐ろしくなった。
「その通り。他国の王族クラスとの晩餐会で並ぶ秘料理ですわ!……ですが、そのままではございません。さあ、ご賞味あれ!」
おののくシイダに気を払うこともなく、トーリアミサイヤ王女は自信満々に言い切った。
「これは……刺身、じゃないな……ん!」
そういった事情を一切知らない吉仲は、なんの気なしにミミックの肉を一切れ食べる。
口に入れたミミックは凍りついていて、とても冷たい。ラーメンを食べて熱くなった口が急冷され、心地よかった。
そして、凍てつくミミックは口中の熱で一気に溶け、旨味が溢れ出した。目が見開く。
「んん!」
慌てて口元を押さえる。
溢れ出した濃厚な旨味のため、口中によだれが溢れ、思わず口から出そうになったのだ。
その様子を眺めていた四人も、恐る恐る口に運ぶ。
「……ん!」