ミミック尽くし
リヨリの作業は間一髪で間に合い、司会の終了の号令と共に腕を止めた。ふぅっ、と大きく息を吐く。
「リヨリさん、お先にどうぞ。きっと熱々の方がよろしいのでしょう?」
トーリアミサイヤ王女は、リヨリを見据えて、自信たっぷりに言った。
「え?う、うん、ありがとう……」
リヨリが審査員席に五つの丼を持っていく。
動くことで湯気は飛び、審査員にその姿を見せた。ビジョンズにも大写しになる。
吉仲達の前に置かれた丼に、澄んだ汁が張られている。スープ料理だ。
その上には刻まれた香味野菜を中心に、煮込まれスライスされたミミックの胃の肉、細切りにされた蓋裏の薄肉と輪切りの貝柱。
スープ表面の具材を支えるように、ほぐされた腕の塊がまとまっている。
吉仲には、その料理に見覚えがあった。
「……ラ、ラーメン?」
「そう!ミミック尽くしラーメンだよ!召し上がれ!」
凍結した王女の料理とは対照的に、アリーナ中央に残る冷気の中、熱々のラーメンの湯気が立っていたのだ。
リヨリの言葉を受け、木製の広いスプーンでスープを一口すする。凍てつく風で冷めた身体に、熱々のスープが嬉しい。
「ほう、素晴らしくダシが効いている」
「うーん……あっさりとした塩味に濃厚なダシが重なって、とっても上品な味わいね♡」
ベレリとシイダの感想に、ガテイユが頷いた。
「生の貝柱だけのダシでも、十分すぎるほどの旨味がある。この味わいこそミミックの魅力といっても過言ではないな……だが、この料理の焦点は……」
ガテイユが薄桃色の麺をすする。吉仲もすすった。
むせかえるようなダシの風味が麺と共に口中に広がる。噛むと、一本一本の麺の弾力が歯を打つようだ。
「むぅ……小麦でも米でもない麺に、ここまでの歯応えがあるとは……!」
「こ、これは腕か!?」
二人の驚愕に、リヨリがにっこりと微笑んだ。
「そう、ミミックの腕をほぐすと、麺みたいになるんだ。面白いでしょ?」
ほぐした腕の繊維は、太めのストレート麺に近い。
小麦で練った麺と異なり、麺の味わいはダシをよく吸った腕の風味。すすった時のスープとの一体感は段違いだ。
さらにまっすぐな麺は、麺同士の間隔が狭いことでスープを逃さず、味わいを一層楽しめる。
スープをそのまま麺の形状にしてすすっているかのような、誰も経験したことのない食感だ。
「いまだかつて、恐るべきミミックの腕を麺に見立てようとした者がいただろうか!?さすがはリヨリ選手、予選、一回戦に続く素晴らしい発想力です!」
一心不乱に麺をすすり、言葉の無くなった審査員に代わり、司会が声をあげる。観客も歓声をあげた。
「……スープも、麺も、そして上に乗った具材もミミック。まさしくミミック尽くしですね」
麺をすすり、煮込まれた胃を食べたマルチェリテが、満足げに呟いた。
煮込まれスライスされた肉厚の胃は貝よりもむしろ獣の肉を思わせ、コリコリとした薄肉は木耳のよう、はらはらと崩れる貝柱と共に食感にアクセントを加えている。
あっさりとした淡麗なラーメンで、麺とスープの味の差が薄い。
だが、煮込んだ胃の濃い味、そして食感のアクセントが加わることで飽きずに食べることができる。
「一匹のミミックを丸々味わえ、その上麺料理という奇想天外な発想!これは驚異的な料理だぞ!」
司会の絶叫に、アリーナが声を上げる。だが、トーリアミサイヤ王女は揺らぐことのない自信に満ちた微笑みでリヨリを見据えていた。