トーリアミサイヤ王女
「バラすより先にバレるのは、残念な物ですわね。サプライズの楽しみが薄れましたわ」
料理仮面はため息をついて、いそいそと仮面を外し、頭に巻いた白布を取る。
「……まあ、どのみちここでバラすつもりでしたけど」
流麗な金髪は優美なカールを描き飛び出し、透き通るような白い肌に整った顔立ちが露わになる。トーリアミサイヤ王女だ。
大きな青い瞳は光が散乱し、奥底に星が輝くようだ。王女はそのまま白布で髪を縛り、豊かな髪をポニーテールにした。
「うわぁ!本当だ!お、お、王女様!なぜ、このような場に?」
司会は驚き、戸惑いつつもトーリアミサイヤ王女に尋ねる。
「ふふ、料理は一国の王女たる私の、嗜みを越えたまさしく趣味!……この大会には、ある目的のため主催者権限でねじ込みましたの!」
料理仮面そのままの自信に満ちた態度で、王女は断言する。
吉仲は三日前に見た、柔和で優雅な王女のイメージが一気に崩壊するのを感じた。
「……な、なんということだー!謎の覆面料理人、料理仮面は王家の姫君、トーリアミサイヤ様だったぁ!」
司会の絶叫と共に、観客が沸き立った。
大半の民衆にとって王女について知っていることと言えば、王宮参賀会の時に王の隣で静かに微笑んでいるか、手を振っている姿だけだ。
その美しさからファンは多いが、話している姿を見た者すらほとんどいない。
その姫が目の前で堂々と話している。ギャップの衝撃が都の民の脳髄を揺さぶり、興奮に駆り立てる。
「王女殿下……では、あの予選の熟成ストーンカは……」
ガテイユとベレリが瞠目する中、シイダだけは額に手を当て、呆れた様子で聞く。
まさかと思ったことも何度かあったが、なるべく考えないようにしていたのだ。
秘密のベールに包まれた王女の性格は、王族と貴族だけは知っている。
とんでもない自信家で、手綱の付けられないじゃじゃ馬だからこそ、民の前で話す機会が与えられなかったのだ。
そして、予選で“料理仮面”が作ったのは、最高品質の乾燥熟成肉を使ったステーキだった。
「知れたことですシイダ!王宮の食物庫の物ですわ!」
王女はふんぞり返る。仮面を外したからか、リミッターが外れたようだ。
彼女は王宮広場からは出ず、秘密の入り口から王宮に入ったのだ。
自信満々な笑み、瞳の中の青い星々が煌めく。
王より大きい瞳に輝く星々は、光を乱反射するサファイアにも見える。
「それ……ルール的に大丈夫なのか?」
「予選のルールはたしか、お店から持ってくるのは禁止、でしたね……」
吉仲とマルチェリテも呆れて呟く。トーリアミサイヤ王女はふんぞりかえった。
「ふふ、王宮はお店じゃありませんわよ?……救貧の炊き出しは定期的にしますけど、いつでも無償ですわ!それに、予選の審査員がこの私の通過を認めたのです!文句は言わせませんわ!」
王女の言葉に観客が沸き立つ。観客もまた、彼女がこの場に立つことを認めたのだ。