正体
八体の形も色も異なるミミックが抽選され、料理人達の前に置かれる。
リヨリのミミックは真紅の小ぶりな個体。料理仮面はそれよりも小さい、真珠のように輝く美しい個体だった。
リヨリは自分のミミックの中をじっくりと見て、時に腕を出し入れし、箱の開け閉めを繰り返し考え込んでいる。
このまま二回戦の第一試合となる。だが、第一試合だけは調理前の検討時間を設けられているのだ。
「ミミック。流通数は多くないけど、美味しいのよね~」
「だが、料理の経験者は少ないですからな。なかなか難しい課題です」
「ガテイユ殿ならミミックをどう料理しますかな?」
「そうですな……一般的な所だと酒蒸し、あとは中身をぶつ切りにしたクラムチャウダーという所ですが、あえてそのまま、炙り焼きというのもオツな物です」
シイダ達がミミック談義に花を咲かせる。
リヨリの対戦相手は、料理仮面。
柔らかな微笑みと対照的に、仮面の下の青い瞳は不敵に輝いている。
彼女はミミックの中身を一瞥した後箱を閉じ、リヨリの様子を眺めているのだ。
「……うーん」
「吉仲さん?」
吉仲は悪い噂もミミックも忘れて、リヨリを眺める料理仮面を見つめる。
「あの人、どっかで見たことあるんだよなぁ……」
<三日前の一回戦も、予選の時もいたじゃない>
ナーサの声に頭を振る。耳の辺りまで出かかっている感覚がもどかしい。
もうすぐ思い出せそうという雰囲気が、このままで済ませてくれなかった。
「……いや、もっと別の場所で……たしか、あれは……」
ミミック談義に興じていた食通三人も、吉仲があまりに思い悩む様子に彼を見る。
吉仲は自身への注目にも気づかず記憶をたぐり続ける、そんなに昔じゃない。つい最近のこと、一回戦より後なのは間違いなかった。
三日間の記憶をさらっていると、脳裏に青い光が差し込んだ。
「……あれは、王宮の……ああ!そうだ!王女様だ!」
思わず立ち上がって叫んだ吉仲に、食通達の、司会と料理仮面の、そして観客の視線が一身に集まった。
「……あれ?」
静まり返るアリーナ。リヨリを除く全員の注目を一身に受け、戸惑う吉仲。
「……お……王女様ぁ?」
司会の間の抜けた声が響き渡り、観客席がざわめく。
ようやく気付いてキョトンとするリヨリと、やれやれと言うように両手を上げる料理仮面。
立ち上がったままの吉仲は、ゆっくりと体をひねり、貴賓席を見た。
宰相が顔に手を当て、空中を仰いでいる。王は愉快そうに苦笑していた。