二回戦、直前
吉仲が王宮に行ってからの二日は、表面上は穏やかに過ぎ去った。
手頃な皮紐でおたまを腰に吊るし、短くした串を懐に忍ばせて外出するよう心がけはじめた。
そのため、街の人々からは「おたまの美食王」という称号を受けるようになったが、奇矯なことをして訝しむ人間は誰もいなかった。
元々の知られるきっかけが大会初日の審査員紹介だったことで、どうやら面白い芸人か何かと思われているらしい。
ただ、今までは大会を見て興味を持ち話しかけてくる人間か、美食王のことなど全く知らない人間のどちらかだった。
だがこの三日間は、吉仲をあからさまに忌避するか、遠巻きに嫌悪のこもった視線を向けてくる人間も何人かいた。
トラブルに発展することこそ無かったが、吉仲は噂が広まってることを実感する。
三日目の晩ご飯は、明日に備えて別のミミック専門店で食べた。マルチェリテが気を利かせて予約を入れてくれたのだ。
その店の店主は、参加選手の何人かが調べに来たとも語った。リヨリも来て、手伝っていったらしい。
吉仲は選手の話をそこそこに切り上げ、マルチェリテに王宮が管理する施設について聞く。
昨日、一昨日と、少しずつ不安な気配が大きくなるのを感じたのだ。
「え?……王宮が管理する施設ですか?……そうですねぇ。基本的には王宮周囲に点在する行政施設でしょうか。あとは王立の学校と、市民のためのホールや劇場、離れた所だと軍の駐屯地がありますね」
マルチェリテは最初こそ不思議がったが、気づいたように気を取り直し、都の主だった場所を教えてくれた。
吉仲が連れて行かれたことで、何かしら察しがついているようだった。
王宮が管理する施設の中には、吉仲が知っている場所もいくつかある。
「あらぁマルチェちゃん、一番有名なのを忘れているんじゃない?」
ナーサがクスクスと笑う。マルチェリテは忘れてたわけじゃないんですが、と、肩をすくめた。
「一番有名な場所?……ああ、王宮とか言うオチは無いよな?」
「ふふ、違います。――ダンジョンですよ」
カルレラ地下ダンジョン、そしてダンジョンクローラーはそれぞれ独立しているが、大元の管理は王宮が行なっている。
魔物からの防衛拠点であり、魔力生産のインフラでもありつつ、娯楽施設としてたくさんの人が集まる超重要施設だ。
王家の王家たる所以、権威の源泉は古からダンジョンの管理権限を持つことにあるのだ。
「あー……なるほどね」
屈強なダンジョンクローラーに助けを求めれば、暴漢くらいはひねってくれそうだ。だが、ダンジョンに入る気はしない。
話を終えたタイミングでちょうど食事も終わり、店を後にする。
帰り道、吉仲はさっき聞いた施設を確かめている自分に気づいた。
翌朝。
「――さあ、料理大会二回戦の始まりです!」
空はあいにくの曇り空だが、アリーナは相変わらずの超満員。
二回戦は、ミミック抽選会からだ。