翌日―リヨリサイド
第一回戦の後、リヨリはニーリとゾートの見舞いと勝利報告のためダンジョンに来た。
二人はゾートの腕の傷が癒えるまで三階層、四階層の見回りや管理をすることになったらしい。
ダンジョンクローラーとしての普段の稼ぎに比べれば小遣い程度だが、仕事が途切れて収入ゼロになるよりはマシだ。
また、負傷した経験や危険への対処法を、経験の浅い後輩達に伝えるのも大事な仕事だ。
負傷したベテランがたまに浅層に来ることで、ダンジョンクローラーの教育が成り立っている。
リヨリも含めた三人で、ダンジョンの詰所でお茶をする。ゾートは軽口混じりに、ニーリは表情を変えずに勝利のお祝いを言ってくれた。
リヨリは一見適当にあしらってるようにも見える二人の態度に、お祝いの意思を感じた。そして二回戦のことを伝える。
「……ミミックね」
「うん、作ったことなくて。でも、市場にはなくて、専門の店に行かないといけないって言われたんだ」
リヨリは朝早くのことを思い出す。
市場の店主から店のある通りは聞いたが、リヨリは店と市場と王宮広場以外の場所をほとんど知らなかった。
忙しそうに働いている店主達に地図を求めることもできず、先にダンジョンに来たのだ。
「そうだな、アレは面倒だからなぁ。市場には卸さず、専門の業者に任せるんだ」
「専門店の場所は聞いたんだけど、よく分かんなくてさ。教えてもらっても良いかな?」
「教えるのは問題ないけど……」
ニーリは言いつつ立ち上がり、詰所の奥にいた老人に話を聞き戻ってくる。
「……今日明日はミミック班休みだって。明日まで新しいのは入らないからある分だけだし、もしかしたら行く頃には売り切れてるかも」
「次の試合は明々後日か?じゃあ、明後日の昼頃行けばちょうど新鮮なのが食えるぞ」
「ミミックは日持ちしないからね。大会に合わせて捕獲すると思う」
座り直したニーリは、リヨリをじっと見つめる。
透き通った瞳はリヨリの全てを見透かすようで、リヨリは尻の座りが悪くなった。
「見たところ疲れが溜まってる、少し休んだ方が良いよ。疲労を抱えたままの戦いは事故の元だし」
「え……う、うん」
リヨリはニーリを見返す、たしかに予選、一回戦とダンジョンと料理勝負の繰り返しで疲れは溜まっていたのだ。
そんなこと気にしてはいられないと奮いたせてはいたが、今の言葉で疲労が一気に顔を出す感じがした。
「ひゅう、姉貴が人の心配するなんて珍しい」
「……うるさいな」
弟の軽口にニーリはそっぽを向く。ゾートが姉貴と呼ぶ時は、全て姉を茶化している時だ。
翌々日、ニーリの言いつけ通りしっかりと休み、リフレッシュしたリヨリはミミック専門店に着いた。
吉仲が行った店とは違い、こちらは加工が専門で隣の料理屋で出している。
ダンジョンの解体場と、工房が合わさったような作業場だった。
大小様々な箱が並ぶ、宝石のような流麗な箱はなく、こちらはいかにも頑丈そうな箱ばかりだ。
「いらっしゃい、……おや君はリヨリちゃんだったね。ミミックを見にきたのかい?」
店先で箱に金具を付けていた白髭を生やした老紳士は、にこやかにリヨリに話しかけた。
「……え?どうして私の名前を?」
「ハハハ、都で魔物料理を生業にしている人間で、かのカルレラ料理大会を知らない者はいないよ。お目当てはそれだろう?」
老紳士は、複数個の解体前のミミックを指差す。
大会用のミミックの選出は終わり、それ以外のミミックを加工する所だ。
「しかし運が良いね。料理人が来たら見せてほしいとは言われてたけど、昨日一昨日とちょうど入ってこないタイミングでね。他に見れた人は少ないんじゃないかな」
老紳士の言葉に、リヨリは心の中でニーリとゾートに感謝をした。