退出
オリバー扮する国王と吉仲は、ミジェギゼラとは反対の方向、王門の方向に歩き出す。
ミジェギゼラとの因縁を知り、会話を遠巻きに見ていた貴族も多い。
後の話は彼らが広めてくれるだろう。
吉仲への用事も終わり、アピールも十分できた。吉仲を帰すことにしたのだ。
「……改心したのかな」
「……どうだろうな、そうであれば憂いは無いが」
人の少ない所を見計らい話す。さっきのミジェラギラの態度は反省したようにも見える。
まず、吉仲への反感があるのであれば、王と二人でいる所にわざわざ話しかけに来ないだろうとも思う。
だが、疑い出すとキリがない。
いつしか二人は無言になり、王宮広場に繋がる門の手前、エントランスに着いた。
国王がゆったりと吉仲に向き直る。
「……吉仲よ、美食王の異名に恥じぬ裁定を降す者よ。次の料理勝負も楽しみにしているぞ」
「はい、陛下。私も陛下の臣民である都の熟練料理人達が作り出す料理、心より楽しみにしております。……本日はお招きいただき、誠にありがとうございました」
今まで見てきた貴族の礼を真似て、吉仲が礼をする。
噛まずに喋れたのは良かったが、礼がうまくできているかは不安だった。
エントランスには衛兵や王宮に勤める官吏などが多く、このやり取りは示し合わせたパフォーマンスの一環だ。
ゆっくりと顔を上げ、失礼いたします、とお辞儀をして振り返る。
横目で見る限り、周りの人間達はどうやら感心しているようだ。
成功の喜びが顔に出ないよう、努めてすました顔をして王宮から出た。
王宮広場に特設されたアリーナが圧迫するように立ち、西日に照らされ赤く輝いている。
アリーナもその周囲も人気がなく、しんと静まり帰っていた。
吉仲は、大きくため息をついた。ドッと疲れが出てくる。
観光気分で気楽な感じがしていたが、やはり王宮は息が詰まる。
「あらぁ、ずいぶん遅かったじゃない。あの王様みたいな人はぁ?」
ナーサとマルチェリテが、アリーナの陰から現れた。
「……ナーサ、マルチェも。待っててくれたのか?」
同時に、吉仲は二人の手に色々な紙袋が握られているのに気付く。
「せっかくだしぃ、二人でショッピングしてたのよぉ。散歩してたら、吉ちゃんが見えたのぉ」
「ふふ、二人だと買い物も楽しい物ですね。吉仲さんもこれからどうですか?」
呆れたように微笑むナーサと、嬉しそうにはにかむマルチェリテ。
「……楽しかったみたいで何よりだよ」
吉仲は今まであったこととの落差で、より疲れが深まった気がした。