表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
190/375

金属板

トライスは吉仲から手紙を受け取り眺める。苦笑が止まり、真顔になると同時に、威厳が溢れてくる。


「だが、厄介なことにお前とイサ、リヨリの繋がりは深いからな。リストランテ・フラジュの因縁も含め、まことしやかな噂が作りやすい。……そして噂は形を変え、広がりつつあるのが現状だ」


トライスの瞳の蒼い光が、吉仲を射すくめる。

真剣な表情に圧を感じ、思わず吉仲の背筋が伸びた。


「噂というのは恐ろしい。何があるかは分からんから備えておけ。……護身用の道具などあれば、噂が消えるまでは持っておくべきだな」


護身用の道具、と聞いて、吉仲の頭に浮かんだのはおたまだった。

出した所で相手の警戒を呼ばないから、案外良いかもしれないなと吉仲はぼんやり思う。


「……それとこれをやろう」


トライスが近くのテーブルの上に置いたカードサイズのプレートを吉仲に手渡した。

金属でできた長方形のカードには、紋章が記されている。


「王宮発行の身分証明証だ。王宮や、王家が管理する施設に自由に入れるようになる、賓客が視察する際に配られる物だ。いざと言う時に使え。……無くしたり、奪われたりせんようにな」


吉仲がプレートを受け取る。金属板はずっしりと重厚感があり、それでいて麗しい。

“この板を持つ者を王家の客として扱い、職務の道義を逸脱しない範疇で便宜を図ること”と彫り込まれている。


「え……なんでそこまで……?」


トライスが曖昧に微笑み、オリバーは真剣な顔で吉仲を見る。取るに足らない噂と考えていた吉仲だが、少し背筋が寒くなった。


「警戒するに越したことはない、ということだ。お前とリヨリが都に来たのに儂も一枚噛んでいるからな、その詫びでもある。さて……」


トライスは立ち上がり、オリバーに話しかける。


「オリバー、儂も街の噂を聞いて回ってみたい。……そうだな、その間王宮内を吉仲と連れ立ち歩いて国王と美食王の親密さを見せておけば、少しは噂も紛れるかもしれん。頼めるか?」


オリバーは御意に、と礼をし、奥の部屋に引っ込む。

トライスも少し待つよう吉仲に言い残し、オリバーと同じ扉の奥へ入っていった。


吉仲はもう一度手の中のプレートを見た。

金属板に触れる手の冷たさが、背筋にまで移ったようだ。晩餐会の支度室よりも狭い物置だが、豪華な調度に囲まれているのも居心地が悪い。


段々と不安が増していき、恐怖で思わず叫び出したくなった頃、二人が戻ってきた。

吉仲の心に安心感が戻ってくる。


「待たせたな」

「……あ、ああ。えーと、入れ替わってる……のか?」


ボロをまとった国王と、絢爛な衣装に身を包んだ浮浪者が、同時に不敵な笑みを浮かべる。二人とも目に星が輝いていない。


吉仲には、まったく見分けがつかなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ