隠し部屋
オリバーは王宮の裏の茂みに入り、巧妙に隠された扉を開く。
地下に降りる狭い通路は、リヨリの村のダンジョンを思わせた。
「こんな道があったのか……」
「内緒だぜ?君は王の信用が厚いから見せたが、重要機密の防衛機構なんだ」
オリバーが口に指を当て、吉仲を先に入れる。
「……だから、ナーサ達にも帰ってもらったのか?」
「そういうことだ。ただ、あの魔女さんが信用できるかどうかは問題じゃない、単純にここを知る者は少なくあるべきだからな」
扉を閉めると、ぼんやりとした明かりが着いた。先は薄暗く見えないが、漆喰の壁や足元は滑らかだ。
「……とはいえ、ここから先は君でもちょっと見られるとマズいんだ。すまんが目隠しをしてくれないか?悪いようにはしない」
吉仲に幅広の布を手渡す。
布は、薄明かりの中でも清潔に見えた。オリバーに促されて目を塞ぐように縛る。
初対面だが、ここまで来て悪いことをされるとは吉仲にも思えなかった。
オリバーに手を引っ張られて先に進み、しばらく進んだ所でオリバーは壁をノックをする。
吉仲には見えなかったが、何もない壁がゆっくりと動き、穴が開いて隠し扉となったのだ。二人が部屋に入ると、隠し扉は閉じた。
「よし、外して良いぞ」
目隠しを取った吉仲の目の前は、小部屋となっていた。
「吉仲、よく来てくれたな」
トライスフェルス国王が、部屋の中央の椅子に腰掛けている。
「トライスさん……あ、いや王様……えーと……国王、陛下?」
しどろもどろになる吉仲に、国王は大声で笑いかけた。
「ハハハッ!今はこの三人しかおらんし、トライスで構わんさ。オリバーもご苦労だったな」
オリバーが恭しく礼をする。片や絢爛な王の平服で、片やボロボロの浮浪者の格好だが、たしかに服を入れ替えれば見分けが付かないかもしれない。
「早速だが、呼んだのは他でもない。……こんなものが送られて来てな」
トライスは吉仲に一通の書状を見せる。
麗しい筆跡による巧緻な文章だが、そこにはイサと吉仲とリヨリの結託と共謀、そして都中の料理人と食通を支配下におかんとする野望。そして、婉曲表現の限りを尽くした三人への罵詈雑言が書かれていた。
最初は読むのに苦労をするが、ある男の口調で読み出すとすんなり頭に入ってきた。
曰く、吉仲達は料理大会を利用し、都の食通と料理人を牛耳り、最終的には国家すらも手中に収めようとしているらしい。
腕利きの料理人と有名な食通を支配すれば、やがては貴族も都の民も骨抜きになり、彼らの思うままになるとのことだ。
「俺も最近、これと同じ内容の噂を街で聞くよ。大半の人達はハナから相手にしちゃいないが、何人かは真に受けて、周りの人間に熱心に伝えているみたいだったな」
「身に覚えはあるか?」
トライスは苦笑しながら吉仲に聞く。ベレリから聞いた通りの内容で、驚きは薄い。
「ええまあ……言い出した人については想像がつきますね。内容については初耳もいい所ですが」
トライスとオリバーがうなずく。吉仲は呆れていた。