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オリバー・ザックス

オリバー・ザックスが転移した時、魔法道具はあれど普及しておらず、住民の大半が水車や馬車に依存しているこの世界で、あることを思いついた。


石油採掘である。


「元々それに近い仕事をしていたんだ。この国の社会システムを知るにつれて夢が広がったね」

「そういえば、石油は考えもしなかったな……」


明かりも水道も気にせず使っていた吉仲は、石油や電気の存在を忘れていた。だが、オリバーの時代にはまだまだ魔法道具は普及していなかった。


「石油を掘り当てられればエネルギー革命が起きる。自動車や飛行機、電力会社だって作れる。やがては繊維やプラスチック、その他諸々の化学製品も作れるようになるだろう。……成功すれば億万長者間違いなしだ」


転移者について知る者は限られている。

だが、その極少数の街有数の金持ちを見つけ出し、説得して融資を受け、彼は数年間掘り続けた。


ある時は世界各地の石油の出そうな土地を転々とし、またある時は人を雇い、危険を冒して掘り続け、やがて気づいたという。


この世界には石油は存在しない。


ダンジョンで起きる現象は、地下深くでも起きる。地下に沈む生き物の死骸は魔力に還元されるのだ。

むしろ、地下深くで起きる現象を、地下の浅い場所でも再現した物がダンジョンとも言える。


動植物の死骸や排泄物が土中の分解者によって土に変わる。あるいは大地の変化で埋没する。ここまでは吉仲とオリバーがいた世界と共通だ。

しかし、その有機物は魔力へと分解され、地上へ立ち上るかダンジョンや鉱物へと蓄積されるのだ。


そうして夢破れた彼には、莫大な借金が残った。


「だが俺はある意味で幸運だった。あの方が俺を見つけて、こうして仕事にありつけているわけだからな」


王宮が彼の身元と借金を引きうけ、彼は宮仕えをするようになったのだ。


「仕事……には見えないかな、悪いけど……」

「ハハハ、そうだろうな。王宮の裏で時間を潰すか、街をウロウロして市民とダベるか、大半はそんな所だ。見た目もこんなんだ、浮浪者とそう変わらんさ」


歩きながらオリバーは街の住人に気さくに挨拶する。街の住人も彼を受け入れているようだ。


吉仲にはその姿が不思議に映った。オリバーの言うように、どこからどう見ても家を持たない浮浪者でしかない。

オリバーは青い瞳で吉仲を見て、ニヤリと笑う。不敵な笑みは本当にトライスそっくりだ。

吉仲に耳を近づけ囁く。見た目の汚れと裏腹に、不潔な臭いはしなかった。


「仕事は三つ。平時には街の噂をあの方に伝えることと、あの方がお忍びで街に出ても目立たないようにしておくこと。……三つ目は有事の際、あの方の身代わりになることさ。幸い最後の仕事はまだしたことがないがね」


オリバー・ザックスは王の影武者だ。浮浪者のような見た目は、カムフラージュにすぎない。


「人知れず国を守る大事な仕事さ。ニンジャみたいでカッコいいだろ?」


吉仲は、初めてトライスと出会った時のことを思い出す。貴人がボロをまとったアンバランスな姿は、今目の前にいる男と瓜二つだった。


影武者という存在に、戦国時代を舞台にした漫画程度の知識しかない吉仲は、どんなリアクションを取って良いかが分からない。

ただ、オリバーも特にリアクションを求めているわけでは無さそうだった。


「……ああ、だからトライスさんはアンタと同じ服装だったのか……」


「そういうことさ。……さ、着いたぞ」



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