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ミミック専門店

翌日。吉仲はすっかりお馴染みとなった喫茶ノノイで、ナーサ、マルチェリテと共に朝食を食べていた。


「ミミック専門店?そんなのがあるのか?」


食後、紅茶を飲みつつ雑談をしている時、マルチェリテが行ってみないかと提案したのだ。


「はい、前にお店巡りをした時は行きませんでしたが、ミミックを味わうならあらかじめ食べておく方が良いかと思いまして」


「たしかにねぇ。私も食べてみたいわぁ」


吉仲は昨日のミミックを思い出す。

箱に詰まった中身こそグロテスクだったが、後でマルチェリテに貝の仲間と聞いて興味が湧いたのだ。


「よし、行ってみようか」


紅茶を飲み干し終え、都の反対側まで歩くことにする。

最後に翔凰楼に行ってからまだ十日程しか経っていないが、吉仲は三人で連れ立って歩くのが随分久しぶりな気がした。


「あ、吉仲さん。あそこです。……良かった、やってるみたいですね」


マルチェリテが指さした先に、美しい細工箱が三段積み重ねられている。これが店の看板代わりだという。

無事に着いたから、何度か同じ道を通ったことは気にしないことにする。


「いらっしゃいませ、お好きなお席へどうぞ……あら、あなたは料理大会審査員の……。そういえば次の勝負はミミックでしたね」


店員の微笑みに、若干気恥ずかしい思いをしつつ席に座る。


第一印象は、アトリエが併設された洒落たカフェという印象だった。店員にもどこか優雅さがある。

ただし、置かれている物は絵画や彫刻ではなく、箱ばかりだ。様々な色と形状、大きさの箱が印象的に見えるようディスプレイされている。


そして、箱は元々、全てミミックなのだという。

マルチェリテがミミックランチを注文する。早い時間だったためか、他の客はまだいない。


「すごいな……これ全部ミミックか?あれなんて本当に金の宝箱みたいじゃないか」


芸術に疎い吉仲でも、惚れ惚れとするような細工を持った箱ばかりだ。


指さした、一際目立つ所に置かれた箱は、マホガニー材のようにも見える滑らかな木目模様に、黄金に輝く縁取りで飾られている。

人の手が加えられたとしか思えない鍵穴まで空いていた。昨日みたような歪みもなく、均整が取れた美しい宝箱だった。


「ほんとぉ……。宝石で作られたとしか思えないわぁ……」


ナーサは自分の隣に置かれた玉虫色の箱をゆったりと撫で、ウットリと呟いた。

螺鈿細工にも用いられる真珠層の構造色が、虹色の輝きを放っている。


「ミミックは人類を誘引するため、ありとあらゆる見た目の進化を遂げていると言いますからね」


吉仲が思わず立ち上がり、店内を見て回る。

滑らかな物、ゴツゴツとした物、トゲがついた物。かわいらしい薄紅色も、海のような深い蒼も、全体が金属光沢で鏡面反射する物もある。


「はい。今では宝石よりも、美しい形のミミックの方が貴重で高価と言われています。ミミックの美しさ、ご堪能いただけたでしょうか?……ミミックランチをお持ちしました、お口でもお楽しみいただければと思います」


店員の女性がランチを置いていく。

真珠色のランチプレートに乗った、アトリエの麗しさ、箱達の美しさに負けず劣らぬ華麗な料理だった。


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