スライム勝負開始!
リヨリはふつふつと闘志が湧き上がるのを感じる。
「……すごいね、楽しみだよ。これを使って料理するのも、君との料理勝負も」
トーマが微笑み、頷いた。そして吉仲を見る。
「吉仲さん?あなたに判定をしてもらえと師に申しつけられました。なんでも美食王に通じる面白い舌をお持ちとか。勝負のルールを決めてください」
「え?あ、ああ。面白い舌かどうかは分かんないけどね。……じゃあ、そうだな。この間と同じ三十分一本勝負、一品での判定で良いか?」
リヨリもトーマも頷いた。リヨリはスライムを手に持ちじっと眺める。どう調理するか、まさに今頭をフル回転させているようだ。
「……ねえ、トーマ。さっき戻す水と締める水を別にしてたけど、分けなきゃいけなの?」
「これもご存知かと思いますが、スライムは体を覆う粘液で結合と栄養伝達を行います。もちろん獲物の捕食と消化もですね。粘液を伝って水を隅々まで吸収させることで元のスライムに戻るわけですが、石灰塩水では表面のみ戻って固まり、中まで浸透しなくなるんです。外側だけが戻って中が固いままになってしまいますよ」
「……なるほどね。じゃあもう一個。この乾燥した状態で料理したことある?」
「ええ、まあ、何度かは。ですが何倍にも膨れますから、最初に切り刻んで思い通りの形になることはほとんどありませんよ」
トーマは首を振りながら言った、リヨリはスライムを手で弄んでいる。
「他に質問はありませんか?」リヨリは頷いた。
「では、私から行かせてもらいます。……都カルレラ、ミサヤ亭の料理人、トーマ!研鑽を積みし我が技術と、師、イサの名誉に賭け、料理の味での勝敗に異論を挟むことなし!」
直立したトーマのハキハキとした声が、店中に轟く。リヨリは思考を中断して、トーマを見つめ、自分も姿勢を正した。
「リストランテ・フラジュの料理長、“食の革命児”ヤツキの娘、リヨリ。この店と父の名に賭けて、料理の味での勝敗に異論を挟むことなしっ!」
一呼吸置き、リヨリは再び考え始める。トーマは吉仲を見た、前回なんて言ったっけ、と吉仲は思ったが、思い出せなかった。
時計を見る、時間は十一時四十五分。
「須磨吉仲、自分の舌に賭けて、厳正に審査する。……リヨリ?始めてもいいか?」
リヨリは吉仲に目もくれず、乾燥スライムをじっと見つめながら頷いた。
「……じゃあ、今から三十分、勝負開始だ!」
誓いは立てられ、戦いの幕が切って落とされた。