混ぜ合わせ
「臭みが無いだけじゃないですね。食べるたびに味わいが変わっています」
「まるで当たり肉のようだが、こんなに大量にあるはずが無いぞ……」
臭みの強いキマイラ肉を挽肉にして混ぜ合わせる手法は、昔から知られていた。
外れの肉も当たり肉と混ぜることでクセが軽減され、ある程度は食べられるようになるのだ。
「キマイラ肉のハンバーグから考えたのさ。当たり肉の方が全体の量は少ないのに、外れ肉と混ざり合えばふつうに食べられる。……見た目じゃ分からないだけで当たり肉の味の方が強くて、混ぜるという工程が重要なんじゃないかってね」
吉仲がスプーンですくう。
ハペリナの子供ほどの手で丸められた小さな肉団子は、くし形に切られてかなり小さい。とろみのある甘酢あんのお陰ですくいやすく、注意を払わない限り二つか三つの肉団子を同時に食べることになる。
口に運び、よく吟味した吉仲が、パッとハペリナに向き直った。
「分かった!小さな肉団子を揚げることで、油で馴染ませて味を安定させている。そして、くし切りにして、他の肉団子と混ぜる。つまり料理の一口で二回キマイラ肉を混ぜ合わせているんだな!」
吉仲の言葉にハペリナが満面の笑みで頷く。
「ご名答!少ない当たり肉と多い外れ肉を混ぜてふつうの味になるんなら、複数頭のキマイラで作った肉団子をさらに混ぜ合わせればより当たりに近づくって寸法さ!一回の混ぜあわせごとに、味は良くなっていくんだ!」
ハペリナが用意した複数頭のキマイラは、別々の挽肉として分けられていた。
それを別々の肉団子にまとめることでそれぞれが安定した味になる。
一つ一つの肉団子は混ざり合ったふつうの味だが、それを切り分け、さらに別のキマイラ肉団子と食べることで味の相乗効果が起き、当たり肉の味わいに近づくのだ。
「それに炒めてシャキシャキになった野菜の歯応えと甘酢あんかけの風味、どちらも臭みを消しつつ肉団子の味を一層引き立たせる効果があるな」
吉仲の言葉に、ガテイユとハペリナが深く頷いた。
「ううむ、見事だ。噂に聞くハペリナの妙技、見せてもらったぞ」
ガテイユが唸る。この料理は真似したくでも真似できない。
ハペリナの速度と正確さ、そして何より身体のサイズに裏打ちされている。
ショートフォークに比べ、身体が大きく動きの鈍い人が同じ料理を作ろうとしても、細かい作業に時間が掛かりすぎて肉団子が冷め、固まって味は落ちるだろう。
「さすがはハペリナ選手!キマイラ肉のクセを取り除く素晴らしい工夫でした!……では、続いてリヨリ選手!」
満面の笑みのリヨリが料理を審査員席に置く。
リヨリの表情と対照的に、料理を前にした審査員達は一様に目を丸め、あるいは目をひそめる。
「キマイラ肉の煮物だよ!召し上がれ!」
皿の中では、スライスされ茶色く煮詰められたキマイラ肉が置かれている。彩りとして緑と白の香草が散らされてはいるが、貧相な印象を与えた。
「……に、煮物?肉だけか?」
吉仲の戸惑った声に、ハペリナが大声で笑い出した。