キマイラ肉団子の甘酢和え
ハペリナの高速調理術で、見る見るうちに大量の、小さな球状のハンバーグが積み上がる。ソースを作り、付け合わせの野菜を切り始める。
とても四十五分には収まらないような作業量だ。だが、その熟練の身のこなしは審査員だけでなく観客にも間に合いそうな安心感を与える。
一方のリヨリは、スライスした肉に軽く焼き目をつけ、隣で沸かしていた湯を入れる。
そして、少し肉を茹でると湯を捨てた。観客がざわつく。キマイラ料理のセオリーをことごとく外していて、料理の最終形が見えないのだ。
<リヨちゃん……?>
ナーサの呟きと共に、ガテイユ達の声も聞こえる。
「うーん……煮物?あの目利きで当たり肉を引いたのかしら?」
「肉のスライス自体は薄めだが、あのサイズじゃ混ざりあわんでしょうしなぁ……」
「話し中すまんが、ハペリナが何をしているか教えてもらえんか?」
吉仲とマルチェリテ、シイダ、ガテイユがリヨリを見ている中、一人だけハペリナを見ていたベレリが呟く。
一同がハペリナを向くと、ハペリナは、ハンバーグを揚げていた。それと同時にソースを、別に炒めた野菜にかけ味を確認している。
「……揚げている?ハンバーグじゃないのか?それにあの野菜は……」
「肉団子でしょうか?」
「う〜ん、あんかけにでもするのかしらね?」
スープの味に頷いたハペリナは時計を確認し、即座に揚げた肉団子を取りだし油をきる。さらに揚げたて熱々の肉団子をフォークで器用に押さえ、素早く八等分していく。
「さらに切るのか……ハペリナも分からなくなってきたな……」
一方のリヨリは少量の湯と調味料を入れ、再び煮込み始めた。残り時間を考えれば、このまま煮物で終わるだろう。大鍋の中の肉は、五等分に整理されたままだ。
「まさしく動と静!対照的な戦いだ!」
高速の身のこなしで大量の食材により多くの手をかけるハペリナと、キマイラ肉を静かに煮こむリヨリ。キマイラの味を知る都の民には、ハペリナが圧倒的に有利に見える。
「残り五分です!」
その言葉を聞き、ハペリナは切った肉団子をソースに投入し、素早い動きで丹念に混ぜ合わせる。
熟練の動きで皿に盛り付け料理を終えた。
リヨリは皿こそ用意したものの、時間ギリギリ、最後の最後まで煮詰めている。
「時間終了!そこまで!」
司会の叫びとちょうど同じタイミングで、リヨリが五枚の皿に料理を盛り終える。観客が歓声を上げた。
「さあ、早速試食に移っていただきましょう!」
「アタシから行かせてもらうよ!キマイラ肉団子の甘酢和えさ!御賞味あれ!」
色とりどりの野菜と、揚げてくし型の肉団子はどちらも小ぶりで、てらてらと輝くソースの中で渾然一体となっている。
料理を前にした審査員の鼻を、酢の香りを基調にした甘い匂いがくすぐり、否が応でも食欲を掻き立てられた。
スプーンのひとすくいでも、複数の野菜と肉団子が混ざりあい、それを一口に食べられる。
「……ん!すごい美味いぞ!」
キマイラと聞いてすぐに思い出せるほどの獣臭さはなく、酢の爽やかさと砂糖や蜜の甘みを、香草の風味が調和させ全体を包んでいた。