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一回戦調理開始!

一回戦当日朝、アリーナの会場は超満員だった。アリーナの中央に司会が立ち、大きくお辞儀をする。


「……さて皆様!待ちに待った大会当日です!一回戦の調理時間は四十五分、一対一で対戦して勝った方が二回戦へ勝ち抜けとなります!」


司会の声に歓声が沸く。


すっきりと晴れ日差しは強いが、アリーナはビジョンズを応用した半透明の白いドームが張られ、送風の魔法陣と共に適度な気温で調整されている。観客は快適な状況で料理観戦ができる。


「……えーと、今日は合計六時間くらいか……長丁場だな……」

「一回戦は試合数が多いから、どうしてもそうなっちゃいますねぇ」


吉仲が呆れたように呟き、マルチェリテが苦笑する。


<あらぁ、二人は美味しいモノをいーっぱい食べられるんだから良いじゃない。私なんか見るだけ見てお預けよぉ?>


イヤーカフス越しに、ナーサの恨み言が聞こえる。

屋台の料理人達は新たな商機を見つけたらしい。アリーナのスタンドを、食べ物や飲み物を売り歩く人が見え、そこここで笑い声やヤジの声が響く。


「まあ、そうだな……」


吉仲の気の重さなどまったく介さず、司会が声を張り上げた。


「それでは早速入場していただきましょう。第一回戦、リストランテ・フラジュ、料理長リヨリ!そして、ミサヤ亭店主、ハペリナ!」


アリーナの門が開き、観客が熱狂する。歓声の中、満面の笑みのリヨリが、ついで真剣な表情のハペリナが入ってくる。

二人がアリーナの中央で対峙した。


「不肖の弟子が世話になったようだね!リヨリ!」

「……弟子?」


ハペリナが不敵な笑みでリヨリを眺める。リヨリはハペリナの顔を眺めて、思い出すように視線を宙にさまよわせる。


「えーと……あ!もしかしてミサヤ亭ってトーマの所の?よろしくね!」


ハペリナは脱力した。


「そこからか……そういや挨拶はまだだったね。アタシはハペリナ。そのトーマも働くミサヤ亭の店長さ」


リヨリが目を丸くする。そして、小首を傾げた。


「え?店長……えーと、ごめんなさい。もしかしてショートフォークの人?」


ハペリナはますます脱力した。とても勝負前の雰囲気とは思えない。

リヨリからはまるで緊張感が感じられなかったのだ。


「……そうだけど、そうなんだけどさ。……まあいいさ、気合いがあろうと無かろうと、この勝負勝たせてもらうよ」


ハペリナが気を取り直して、胸を張った。少女が精一杯背伸びしているようにも見える。


「ううん。私が勝つよ」


リヨリは首を振り、ニッコリと微笑む。そして事もなげに言い切った。

ハペリナは一瞬キョトンとする。真顔になるとあどけない子供にしか見えない。


子供に見えるショートフォークだからと侮っているわけじゃないのは、今までの経験上すぐに分かった。

相手が誰であれ、自分の勝利を確信している声だった。


「ふうん。……面白いこと言うじゃないか、お嬢ちゃん」


「おおっと両者、試合前から火花が散っている!……さぁ、勝負の誓いを!」


司会の言葉の終わりを待たず、ハペリナが威儀を正した。呼応するように、リヨリも背を伸ばす。


「ミサヤ亭、店長ハペリナ!アタシの腕と店の名に賭けて、料理の味での勝敗に異論(くち)を挟むなんて真似はしないよ!」

「リストランテ・フラジュ、料理長リヨリ。初代ランズが興した店と、父ヤツキの名に賭けて、料理の味での勝敗に異論を挟むことなしっ!」


ハペリナがニヤリと笑い、調理台へ移動した。リヨリも微笑んだ表情のまま調理台へ立つ。


観客がざわめく、話の聞こえない遠くからでも、リヨリからはなんの緊張も気負いも見えなかったのだ。


「準備は良いですね?……それでは四十五分……調理開始!」


司会の掛け声と共に二人が弾かれるように動き出した。

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