ニーリとゾート
一息着いた後、今までのキマイラと同様に、ドラコキマイラの肉の一部を切り出しリヨリが食べる。
「うん……うん、あ……分かったかも……」
三切れ目を食べたタイミングで、リヨリの目が輝いた。
「なあ、おい、早くしてくれねぇか。もう遅いしよ」
同時に、止血を終えた大男が辺りを窺いつつリヨリに言う。
護衛される身で危険を冒したことは、戦況を好転させたことで不問となった。実際、リヨリが動かなければ危なかっただろう。
それに、このまま夜になるダンジョンに止まり続ける方が危険だ。
「あ、ごめん。もう大丈夫だよ」
リヨリが立ち上がると、大男は止血した腕に負担が掛からないよう、ドラコキマイラを持ち上げ歩き出した。
幸か不幸か、ポータルは近い。移動速度によってはエンカウントせず脱出できたかもしれないと、眼鏡の女性はため息をついた。
「う、いってぇ……」
膠着状態の時に獅子の牙や山羊の角で攻撃されたのだろう。腕の傷が目立っていたが、よく見ると全身擦り傷と噛み傷だらけだ。
「……ごめんなさい……私が無理言ったから」
「ま、ドラコキマイラなんて大物捕獲できれば、充分だ。なあ?」
ドラコキマイラの肉を落とさないように気をつけ、大男は振り返った。夜の魔物は貴重なため、昼の魔物肉よりかなりの高値で売れる。
「いや、今までの収穫分全部合わせても、その腕の治療費と使った札の補給と斧の修理代、あと当面の生活費……どれだけ残るものやら……」
昼夜問わず、魔物の捕獲に使った出費が、得られる収入に見合うかは分からない、ということもあるが。
眼鏡の女性がもう一度ため息をついた。
「ごめんね……えーと……」
「いいよ、仕事だし。………私はニーリ。そんでこっちは……」
責任を感じてしょげるリヨリに、眼鏡の女性、ニーリが微笑みかける。
今回は自分の時間の見積もりが甘かったせいだ、依頼人が責任を感じる必要はない。
「俺はゾートだ。似てないけど姉弟なんだぜ。こっちが姉貴だ」
「え?姉弟!?」
リヨリが二人を見比べる。筋骨隆々の大男の方がどう見ても年上に見える。そもそも似てなさすぎて姉弟に見えないというのもあるが。
「私は童顔で、こっちは老け顔だからね。……普段は依頼人の名前を聞くことなんて無いけど、せっかくだし、あなたの名前も教えてよ」
「私はリヨリ!よろしくね!ニーリ!ゾート!」
「はは、また無茶なお願いをされそうだな」
魔物出荷用のポータルは一方通行で、その階層から二階層へと戻ることしかできないが、緊急脱出時にも使われる。
大男、ゾートがドラコキマイラの肉をポータルに置いた。
「じゃ、行くよリヨリ……覚悟は良い?」
「え……うん……」
ニーリの言葉に、リヨリは恐る恐る頷く。
魔力酔いに慣れてきたのか、痛みが魔力酔いを凌駕するほど強くなってきたのか、身体から離れたどこか遠くで痛みと疲労が起こっているような気がした。