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魔力酔い

一行は七階層を周回し、さらに、二体のキマイラを倒す。


「もう大分遅くなったし、そろそろ戻った方が良いかもしれない」


眼鏡の女性が懐中時計を取り出し、大男とリヨリに向かって言った。


「そうだな、この腹の空き具合だとボチボチ晩飯時ってとこか」

「……え?もう?……まだお昼くらいじゃない?」


リヨリが立ち止まり、女性の肩越しに懐中時計を覗き込む。時間はたしかに夕刻だった。

だが、ほとんど休憩もしていないし、昼食すら取っていないのだ。リヨリの体感では、昼過ぎくらいだった。


大男は笑い出す。女性は、驚いた顔でリヨリを眺めた。


「なんだお前、知らないのか?ダンジョンってのは下に潜るほど、体感時間よりも早く時間が進むんだよ」


魔力が濃い環境に長時間いると、人体はその影響を強く受け、“魔力酔い”という状態になる。


精神と肉体は魔力の作用で賦活(ふかつ)され、高揚するが、それと引き換えに時間感覚をはじめとした身体感覚を徐々に喪失していく。


そのため、実際の時間よりも短い時間しか動いていないように感じるのだ。


疲労を感じない状態で、自覚の無いまま集中力が欠けると、思わぬトラブルを巻き起こす。

また、生死のかかった土壇場で身体の限界が来ることもあり、ダンジョンクローラーの死因の第一位にもなっている。


熟練のダンジョンクローラーになるには、魔力酔いをうまく乗りこなして長時間の探索をこなしつつ、自らの限界を早めに悟って撤退する勇気と判断力も必要となる。


「夜は強力な魔物が目を覚ます。このまま切り上げよう」


眼鏡の女性の心配ごとはもう一つあった。


リヨリが魔力酔いを知らないなら、痛覚を喪失して気づいていないだけで、すでに腹痛になっている可能性もある。

魔力酔いのことを知っていれば、身体に神経を集中させ違和感で判断できるが、何も知らない人間は腕が取れたことにも気づかないという。


「……そうだな、早めに帰るか」


大男は相棒の表情で何かを悟り、真剣な表情でリヨリを見た。

リヨリはキョトンとした顔で二人を見返す。だが、その真剣な表情で何かが起きたことは分かったらしい。


「え?……う、うん」


今はダンジョンの中層、身体に限界が来る前に引き返せば問題無いはずだ。たまたま魔力由来の細菌が入っていない可能性もなくは無い。


引き返そうと方向を変えたタイミングで、キマイラとエンカウントした。獅子と山羊の頭がゆったりと角の先から現れる。


「……ちっ、もう良いってのによ」


しかし、その身体は今までの物と比べて赤い。そして、翼が生えていた。


「――いや!お前ら下がれ!」


大男の叫びで、弾かれたように女性がリヨリを引っ張り、大男の背に隠れる。二人は、即座に臨戦態勢に移った。


山羊の頭を中心に、向かって左は獅子の頭。そして山羊の頭の上には反り返った蛇。

ここまでは、今までのキマイラと同じだ。


だが、山羊頭の右側に龍の頭が、そして背には龍の翼が生えている。そして、全身が固まった血のように赤黒い。


「ドラコキマイラ……」


女性が緊迫した声で呟いた。

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