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熟練の戦い

威嚇を続けるキマイラに向け、大男が斧を振るい上げ、叫びと共に突撃する。


キマイラは山羊の頭が息を吸い込み、獅子の頭から炎を吐き出した。それより一瞬早いタイミングで、眼鏡の女性が紙に描かれた魔法式を解放する。


直撃に見えた炎の息は、大男の前で逸れた。

微かな光の反射が、薄青のハニカム構造を描き出し、防御力場(シールド)の展開を示している。

防御力場(シールド)は、あらゆる力の流れに影響を与えるフィールドを作り出し、攻撃の威力を軽減、無効化する魔法だ。


大斧を天井すれすれまで振るい上げ、大男はまず獅子の頭を砕き、返す刃で山羊の首をはねた。


熟練のダンジョンクローラーの腕とコンビネーションはすさまじい。

中級者でもてこずるキマイラを阿吽の呼吸で葬り去った。


仲間への信頼が無ければ炎に向かっての突撃はできないし、仲間と魔物の位置関係を掌握していなければベストなタイミングで防御力場(シールド)を張ることもできない。


最後に残った蛇の頭を切り落とす。キマイラが沈黙した。


「ざっとこんなもん。まず一体だ……あ、おい!」


リヨリがナイフでキマイラの皮を裂いた。

止めようとした大男が、眼鏡の女性に制される。彼女がリヨリに許可を出したのだ。


手早く内臓を抜き、肉のあちこちにナイフを入れ、一口サイズにして口に入れる。


「売り物に必要な部分は傷つけてないから解体して売れるし、無駄にはしないってさ」

「……まったく、なんだってんだ。変なことすると解体班(うえ)の連中がうるせーぞ?」


カルレラダンジョンの食材流通は、完全な分業ができている。


ダンジョンクローラーが、搬出用兼緊急脱出用ポータルで魔物肉を送れば、二階層にいる解体班がその肉を流通用に加工するのだ。


「うーん、うん。ありがとう、もう大丈夫だよ!……次、お願い!」


布でナイフをぬぐったリヨリが、二人に頭を下げる。

大男は呆れたように頭をかいた。


キマイラの脚に捕獲したダンジョンクローラーを表すタグを付けて搬出し、次を探す。

そのタグで、誰が狩った魔物かが分かり、報酬が支払われるのだ。


キマイラ以外の魔物に襲われることも多かったが、ベテランの二人は危なげなく倒して行く。

ほどなくして、二体目、三体目のキマイラともエンカウントし、同じように倒し、リヨリもまた同じように身体の一部を味見する。


「同じ部位の肉を味見しているみたいだけど、それがやりたかったこと?」


小柄な女性がリヨリに尋ねる。リヨリの奇行が彼女の興味を引いたらしい。

ダンジョンクローラーの魔術師をしているだけあって、変な物や奇妙な物への興味は高いようだ。表情こそ変わらないが、目がキラキラと輝いていた。


「うん……まだうまく言えないけど、キマイラの肉ってすごく不思議なんじゃないかって」


大男が呆れ顔で振り返った。


「……お前の方が不思議だよ。早く出ないと腹壊すぞ」


ダンジョン内での肉の生食は、ダンジョン由来の細菌を食べていることに他ならない。

一階層まで戻れば魔力抜きの魔力吸引魔法が効くが、それまでに細菌の毒素に侵されると命に関わる。


「そうだ、身体に違和感はない?」

「……ん?別に平気だよ?」


リヨリは、一ヶ月前に飲んだナーサの薬がまだ効いていると祈ることにした。



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