光明
リヨリが厨房を片付けている間に、近況報告をした。
火傷はまったく問題が無いことと、むしろキマイラ肉が大問題なことが主な話題だ。
「本当もうさ、煮ても焼いてもクセがすごいの。ハーブやお酒でマシにはなるけど、それはそれで変な風味が出るしさ……」
キマイラ肉を包み、野菜やハーブは所定の場所に片付け、今は食器の洗い物をしている。
リストランテ・フラジュでやっていた頃より手際が良いのは、吉仲にもナーサにも見て取れた。話ながらの作業でも、動きに一切の淀みが無い。
「キマイラ肉なぁ。たしかに店で食べた時もクセがある所と食べやすい所があったなぁ」
人気メニューと銘打っているにも関わらず、飲み込むのが精一杯の肉だったお店もあれば、注文時に食べ切れるか念を押されたにも関わらず、拍子抜けるほどあっさりと、それもおいしく完食できた店もある。
「当たり外れが大きいって言われてるものねぇ」
「え!本当に!?なんで!?」
食器洗いの最中のリヨリが勢いよく振り向く。勢いがつきすぎて、皿がすっぽ抜け割れる所だった。慌ててリヨリが掴み直し、皿は無事だった。ほっと息をつく。
「あら?リヨリさんはキマイラ肉をご存知無いんですか?」
「うん、お父さんも獲ってこなかったし、ここに来て初めて見たよ……」
吉仲が食べた料理の記憶を思い出す。
総じてキマイラは当たり外れの多い獣臭い肉だと思っていたが、いくつか味が安定していた物もある。
「キマイラ肉なぁ。シチューとかハンバーグは割と安定していたかな」
「ハンバーグ?」
「……ああ、でも獣臭いのもあったな。……あれは……ん!」
マルチェリテが、手で、吉仲の口を塞ぐ。吉仲の唇にマルチェリテの柔らかな手の感触が、鼻孔を花の香りがくすぐった。
吉仲は驚き、身体をのけぞらせる。
「……ま、マルチェ?」
「すみません吉仲さん、リヨリさん。今回はあくまでお見舞いですから」
吉仲が思い出したように頷く。なんの気なしに言ってしまう所だったが、ヒントを与えているような物だった。
「そういえばそうだった、忘れてたよ……。ごめんなリヨリ、審査員があんまりこういうこと言うのは良くないかなって……」
「え?……ああ!そうだね。審査員がヒント言うのはダメだもんね。大丈夫だよ」
リヨリが片付けを終え、吉仲達は店を出て行く。吉仲は、このままいるとつい話してしまいそうだった。
だが、ほんの二十分程度だったが、リヨリは今まで溜まっていた鬱屈が全てリフレッシュされた気分だ。
片付けを終えて、黒い肉を開く。
「……ハンバーグか……」
リヨリの目に、一筋の光明が見えた気がした。