お見舞い
同日朝、吉仲とナーサ、マルチェリテは喫茶ノノイで朝食を食べていた。
サンドイッチとスコーンと、濃いめの紅茶。質素な軽食も喫茶ノノイの重厚な雰囲気の中食べると、高級感に溢れている。
「昨日はあの後、料理人達の料理を食えたのか?」
「やっぱり、試合の料理を食べるのは人気だったわねぇ。私が行ったタイミングだともう抽選券が無くなってて、屋台で食べたわよぉ」
ナーサが肩をすくめる。
祭りの空気の中食べる屋台料理も美味しいが、都の選りすぐりの料理人の逸品に比べれば、さすがに味は一段落ちる。
「はは、残念だったな」
「まあしょうがないわねぇ。……あ、そうそう。これからリヨちゃんの所に行く予定だけどぉ、吉ちゃんとマルチェちゃんも行かない?」
特に会うことを禁じられてはいない。だが、吉仲は昨日のベレリ達の話を思い出した。
今の吉仲が、リヨリに会うのはまずいかもしれない。
「……あー。どうだろうな、会うのって。……贔屓してるみたいにならないかな」
「審査員と選手だからぁ?う〜ん、どうかしらねぇ」
「大したことは無さそうでしたが火傷もしてましたし、お見舞いくらいなら大丈夫じゃないですか?」
マルチェリテが紅茶を飲みつつ、吉仲を見た。
「そうそう。別にそれくらい、贔屓することには繋がらないんじゃないかしらぁ」
微笑みかけるナーサに、吉仲は微妙な表情で返す。とはいえ、リヨリの怪我の具合は吉仲も気になっていはいた。
「……そうだな。行くか、怪我の具合も気になるし」
二十分後、吉仲とフェルシェイル、マルチェリテはグリル・アシェヤへ着いた。
大会期間中、参加店は運営から休業補償を受けて店を閉めている。そうでなければ噂好き、流行り物好きの客が殺到し、料理に集中する時間が取れなくなるだろう。
「……うーん……全然ダメだ~!」
扉を開くと、店中にリヨリの声が響いていた。店の奥からガシャンと、金属が当たる音もする。
休業ではあるが、いつものルーチンで店のテーブルを拭いていたサリコルが三人の姿を認め、ニッコリと微笑みかけた。
「あら、三人とも、いらっしゃい。リヨリちゃんなら奥よ、入って入って」
サリコルに促され入った厨房は、散らかり放題だった。
色々な液体や粉の入ったボウル、使い込まれたフライパンに鍋、作業台に散乱するハーブやスパイス。まな板の上の黒みがかった肉。
そして、その前に両手を付き、憔悴したような、祈るような姿勢のリヨリ。
「リヨリちゃん……ちょっとの間に散らかしたわねぇ」
呆れたように微笑むサリコル。リヨリが入り口に向けて顔を上げる。
腕には包帯、頬にはガーゼを貼られているが、元気そうに見える。リヨリの瞳がパッと輝いた。
「あ!吉仲にナーサさん、マルチェも!いらっしゃい!」
「リヨちゃん、怪我は大丈夫ぅ?キマイラ、難航してるみたいねぇ」
ナーサの言葉に、リヨリは苦笑した。