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スライムの謎

トーマが、白い袋から中身を出す。

「結論は、これです」

薄水色の、しなびた塊だった。

固まっていて軽い、完全に水気をうしなった乾物だ。吉仲には、乾燥した春雨の塊に見えた。


リヨリは一つを受け取り、手で弄ぶ。どう見ても、見たことの無い食材だった。

乾燥しカサカサしているが、柔軟で握っていると心地よい。食べられるようには見えなかった。

「何これ……」


「スライムです」


「ええ?スライム?これが?」

リヨリと吉仲の声が被った。


――スライム。ゼリー状のモンスターで湿り気の多い森や洞窟、ダンジョンの浅い階層に出現する、ありふれたモンスターだ。

原形質流動で体を動かし、その身に飲み込んだ生物をゆっくりと溶かして捕食するが、その動きは決して速くは無く、大昔には経験の浅い戦士達の訓練にうってつけとされていた。

意思はなく捕食者の本能で動き、そのため自分より強い生物に襲い掛かることもしばしばある。

現在では捕獲方法が多くの人間に知られ、どこでも獲れるポピュラーな食材とされている。


単一の生物のように見えるが群体で、栄養分を共有する無数の個体が寄り集まり一体を構成する。

スライム同士を近づけると塊が大きくなっていき、ちぎるとそのちぎった部分でも動くことができる、粘菌のような生物だということが近年の研究で発見されている。


「さすがにこの状態で作れと言われても不満が残るでしょう。私が最初にどう使うかをお見せしたいのですが、調理場をお借りしてもよろしいでしょうか。鍋とまな板、皿さえお借りできれば結構です」


「いいよ」

リヨリが調理台から離れる。


トーマはイサと同じような前掛けを着けて、包丁を包んだ白布と、スライムの塊を一つ持ちリヨリと入れ替わるように調理台に立った。老人達も興味津々だ。


「ある地方では、食用スライムの干物が伝統的に食べられていました」


トーマは鍋に水を張り、スライムの塊を入れた。水を吸っているんだろう、細かな泡が立ち始める。


「それなら聞いたことがあるよ、食用にしたスライムを日干しにして乾燥させると、日持ちするモチモチしたゼリーになるんでしょ?……まあ、わざわざ干したのは食べたことないんだけど」

「え?スライムって食べて大丈夫なのか?」


「あれ?結構どこでも食べられると思うんだけど、吉仲食べたこと無いの?」

吉仲は首を振る。そもそも、吉仲にはスライムを食べるという発想自体が無かった。


「へー珍しい。どこにでもいるし、よく食べられると思うんだけど」

「そんなに普通に食べる物なの?」

吉仲は右から左に老人達に尋ねる。


「まあ、夏は食うかの。ひんやりしていて食欲が落ちた時にはちょうど良いしの」

「どこでも取れるから、普通に食卓に並ぶんじゃないかね。泥抜きはちょっと面倒だけどね」

「年寄りはスライムを喉に詰まらせることも多いからって、ワシは最近息子の嫁に食わせてもらえんなぁ」

「そりゃ少し可哀想だの、まあどうしても食いたいという物でも無いがの」


老人達の、まるで豆腐か餅でも食べるかのような気軽なリアクションに、吉仲は驚きを通り越して内心呆れた。


「乾燥地帯だとそもそも獲れませんし、獲れる地域でもわざわざ泥抜きをしてまでスライムを食べない所もあると聞きます。しっかり泥抜きをせず消化液が残ると、胃を逆に溶かしてしまう危険もありますしね。捕食した物によっては毒を持つこともありますし」


不思議そうな顔をする吉仲に、トーマがフォローに入る。


「ただ、簡単に大量に捕獲でき、それなりに栄養もあり腹持ちも良い。特に他の食材が手に入りにくい痩せた湿地が広がる地方では、夢の食材でもありました」


トーマが話ながらザルで水を漉す。吉仲は、なんとなくトーマが良い奴だと思った。


水はほとんど流れて来なかった。水分がスライムに吸収されたことで、スライムが戻っている。鍋の中には、水分をよく含みプルプルと震える、巨大な丸い薄水色の塊。


「綺麗な水ですね、交ざり物が無くここまで透き通ったスライムを見るのは久しぶりです」

「わ……本当に綺麗なスライム」

「いやでも、ウチで普通に泥抜きしてもこんなにはならないよ。どうしたらこうなるんだい?」


トーマが頷き、スライムをちぎって間隔を開けてまな板に並べていく。


「ご存知だとは思いますが、野生のスライムは泥や捕食した生物の残り滓で濁りますよね。捕まえたスライムを綺麗な水に漬けつつ、しばらくの間薄めたポーションなどの回復薬を養分にして育てると、汚れが落ち、透き通っていきます。ポーションは溶かさなくても吸収できるので消化液も弱り、やがて食用のスライムができる。それが通常の泥抜きです」


リヨリと老人達が頷く、吉仲はいまだに釈然としなかった。

ゲームで最初に出てくるスライムの印象が強すぎる。

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