初戦課題発表
「さあ!これで決勝トーナメントに臨む十六人が出揃いました!突破した皆様に、今一度盛大な拍手をお願いします!」
鳴り響く万雷の拍手の下、威風堂々とした料理仮面を先頭に、十二人の料理人がアリーナの中央に向かう。
リヨリ、フェルシェイル、トーマとハペリナもアリーナの中央に移動する。
司会が一息入れて、言葉を継いだ。
「……続いて、第一回戦のテーマ食材の発表です。……古来より伝わる一つの格言があります、――山羊を食す者は頑健に、獅子を食す者は勇猛に、蛇を食す者は怜悧になる。そして、全てを同時に食した者は王になる――と」
料理人達の背後から、台車が現れる。白い布で覆い隠され、中は見えない。
「その奇妙な姿は多個体同体の代名詞ともなり、かつての食通達はその独特の味に、夢に見るほど恋焦がれたとも聞きます」
観客のざわめきと同時に、台車がゆっくりと減速し止まった。
司会の合図と共に、白い布の覆いが取り除かれる。
獅子の頭に、山羊の頭。しかし胴体は一つだけだ。山羊の頭と同じ色をしている。
尻尾のある位置からは蛇が生えていた。
魔物はすでに絶命し、ピクリとも動かない。
「初戦の課題は“王の食材”キマイラ!熟成を終わらせた最高品質のキマイラを用意いたします。下ごしらえをする場合はお声がけください!また、大会期間中は参加選手のためダンジョンを解放します。他に必要な食材があれば、各自調達をお願いいたします!」
観客が盛り上がる。
解体された肉の状態であれば市場でよく見かけるが、倒した直後を見たことがある者は意外と少ない。
ほとんどの料理人達は緊張の面持ちでキマイラを眺めている。
余裕の笑みを浮かべるイサ、表情をまったく変えない“死神”テツヤ、そして、珍しい物を見る目で眺めるリヨリを除いて。
「そして、決勝までのトーナメントはこの通りとなります!」
ビジョンズいっぱいに、出場者のトーナメント表が映し出される。
映し出されたトーナメント表から、料理人達は自分の名を探し、最初の相手を確認する。
リヨリも自分の名を探そうと思ったが、その手間は不要だった。第一回戦最初の試合にこう書かれている。
――リストランテ・フラジュ、リヨリVSミサヤ亭、ハペリナ。
「では、三日後に再びお会いしましょう!これにて、王都カルレラ料理大会、予選を終了いたします!」
観客の歓声と共に、予選が終了し、料理人達ははけていく。
なおもキマイラを眺めるリヨリに、フェルシェイルが話しかけた。
「ねえ、トーナメント表見た?アタシとアンタ、まったく反対側だったんだけど」
「え?」
リヨリがトーナメント表を見直す。その日の最終試合、リヨリと対角の位置にフェルシェイルの名前がある。
対戦相手は知らない料理人だった。フェルシェイルによると、都の有名店の料理長らしい。
「あー、ホントだ。……じゃあさ、決勝で勝負ってことだね」
「ま、そういうことね。アタシと勝負するまで負けるんじゃないわよ!」
フェルシェイルが真剣な表情で指を突きつける。
「フェルシェイルこそ!」
フェルシェイルは笑い、リヨリも笑い返した。