予選終了!
「さあ、予選から勝ち上がる最後の三人は誰だ!?」
司会の叫びに呼応し、観客が歓声をあげる。ビジョンはゆっくりと五人の料理人を映し出した。
「――上位三人。翔凰楼フェルシェイルと、リストランテ・フラジュ、リヨリ……」
フェルシェイルとリヨリが互いを見て、力強く頷きあう。ギリギリにはなったが、予選なんかで止まってはいられない。
「……そして、ミサヤ亭、トーマ合格!」
より一層の歓声があがった。トーマは喜びより先に安心が来たようだ。
力が抜けたように、大きくため息をついた。ハペリナがトーマに駆け寄り、背中を叩いた。
「納得いかねえな。まあ後から来た二人の嬢ちゃんには負けるけどよ、俺の焼きキラートマトはどうして評価されなかったんだ?」
セガルが一歩前に出た。予選審査委員長が頷く、もっともな疑問だ。
「セガル、もちろんラクレフの料理も、技術の上では合格ラインに達していた。……だが、今回のルール上、複数いた場合はより料理が優れている方となる」
セガルの顔が不機嫌そうに歪んだ。料理にも自信があるからだ。
「キラートマトという難しい食材を選んだのは素晴らしい。だが、食材を当てにしすぎたのではないか?……焼きキラートマトも立派な料理だが、今回の技術勝負においては、少々単調すぎたのだ」
「……どういうことだよ」
「トーマさんのマイコニドのバターソテーは、マイコニドの下処理を他の料理人よりも丁寧に行っていました。捕獲時から繊細な注意を払わないとああはならない」
もう一人の審査委員が口を挟む。決め手に欠けていた三人目を強く推薦したのは彼だ。
トーマが恥ずかしそうに俯いた。
リヨリに負けて以来、自分に奇想天外な発想は出来ないことを悔やみ、そしてそれでも強くなるため、自分の持ち味を活かそうと決めたのだ。
あらゆることに最大限気を払った、完璧に基本に忠実な調理をすると。
食材調達の時点から弛みなく基本を守り続ければ、その愚直な積み重ねは、やがて一つの個性となる。
「……対してセガルさんのキラートマトは、切り加減焼き加減こそ完璧でしたが、正直に言って、料理自体はありふれた物で後から物足りなく感じました。少々固く、熟しきってない若い個体だったというのもあります」
セガルが審査員を睨みつけ、黙った後に振り返った。
「……ちっ……そういうことならしょうがねぇ……修行不足だ、出直すぜ」
セガルは振り向き、ラクレフが彼の肩を叩き共に出ていく。二人のための拍手が鳴り響いた。
吉仲は二人を見送り、リヨリに向き直った。
「まったく、ダンジョンで料理しようなんて、無茶苦茶すぎだな……」
「へっへっへ、本当にラッキーの賜物だったね。……でも、間に合ったでしょ?」
吉仲の言葉に、リヨリが笑って返す。二人は笑いあった。
言葉をかわすのは晩餐会以来だが、リヨリの技術がより一層上がっているのは吉仲にも分かった。
「リヨリさんを見れば、どれだけ無茶したか分かりますね……あら?」
「どうしたのよマルチェ?」
マルチェリテがキョロキョロと辺りを見回した。何か嫌な視線を感じたような気がしたのだ。
「……これにて予選は終了となります!予選突破を決めた皆様は、今一度会場へお戻りください!」
しかし、司会の声と共に視線はかき消えた。
気のせいだったのかもしれないと思い、彼女は首を傾げて座り直した。
同時に、今まで予選を突破してきた十二人の料理人が入ってくる。
観客が湧く。ここにいる料理人達は、間違いなく都でトップの十六人だ。