コカトリスの包み焼き
焼きキラートマトを食べ終えた審査員は溜まりかねたように、リヨリとフェルシェイルを見る。
「次は……」
焼きキラートマトももちろん美味だった。だが試食中も気になっていたのは訳がある。
包みから漏れ出る香りが、時間を置くほどに高まっているのだ。良質なワサビのような鮮烈な香気は頭をすっきりとさせ、それでいて蠱惑的だ。
「それじゃアタシからね。翔凰楼フェルシェイルよ!コカトリスの包み焼き、召し上がれ!」
フェルシェイルが幾重にも重ねられた包みを開く。
外側の葉は黒く焦げているが、中の方に行くにつれ緑に変わっていく。葉の水分が多いからだろう、中は熱が通っているが、焼けてはいない。
包みを一枚ずつ開くたび、匂いがどんどん強まっていった。
一番奥の深緑の下地から、純白の蛇の切り身が現れた。
同時に、香気が一気に広がる。アリーナ全体を覆うほどにも感じられた。
<すっごいわぁ……ここまで美味しそうな匂いが来るなんてぇ……>
吉仲の耳をナーサの声がくすぐる。
「この香り……本当に蛇肉なのか……」
ガテイユが呟く。またもや、彼の知らない料理だった。
「まずは食べてみてちょうだい。話はそこからよ」
フェルシェイルの自身に満ちた瞳に押され、予選審査員と食通が一口食べる。
「あちち……」
吉仲は思わず水に手を伸ばす。
葉の包みの効果で、ダンジョンで作って持ってきたとは思えないほど中は熱々だ。
蛇の肉は口の中ではらはらと解ける、そして、漂っていた芳香が凝縮したような爽快感が鼻から抜ける。
鮮烈な香気が脳天に直撃する、だが辛味はない。うっすらとした塩味がとても上品だ。
「あら!美味しいわねこれ!」
「ふふん、当然よ!」
シイダが声をあげた。上品でいて、力強い。貴族が好む味だった。
胸を張るフェルシェイルを押し除けて、リヨリが料理を置いた。
「次は私のも食べてよ!リストランテ・フラジュ、料理長リヨリ!同じくコカトリスの蒸し焼きだよ!」
リヨリが剥いた葉は、フェルシェイルの物と異なり、蒸されたために一番外側から中まで緑が鮮やかだ。
そして、包みの中心には、コカトリスのもも肉が切られて入っている。
こちらもフェルシェイルの料理に負けず劣らずの良い香りだ。だが、匂い、そして味はひきたてのコショウのようにスパイシーだった。
「お!こっちは辛いな!でも鶏の甘味とよく調和している、蒸されたことで中まで風味が染みてるよ」
「むぅ……フェルシェイルもそうだが、これだけの料理をダンジョンで作った、だと……調味料も無しでどうやって……」
ガテイユの言葉に予選審査員が頷く。切って葉っぱで包んで焼くだけではこうはならない。
「これは幾重にも重なっていた葉っぱの風味だな。違う種類で包んだことで味の違いが出ているんだ」
吉仲の言葉と共に、全員の視線が葉に注がれた。そうだ、きっと葉に秘密がある。
熟成の済んでいないコカトリスの肉を、柔らかく、豊潤にする秘密が。
「へっへー、休憩所に生えてた薬草だよ!」
リヨリが、胸を張った。