食人植物料理三種
「リヨリ!?」
「フェルさん!」
いち早く反応した吉仲とマルチェリテに続いて、他の審査員と審査を待つ三人も振り返った。
リヨリとフェルシェイルは、門から対岸の審査員席へ走る。
<良かったぁ……間に合ったのねぇ。でも、リヨちゃんボロボロじゃない……>
リヨリは服の所々が焦げ、身体にも火傷を負っているようだ、だが、痛みのある様子には見えない。
他の料理人達は、突然のことで呆気に取られていた。
リヨリとフェルシェイルが、それぞれ持っていた物を審査員席に置く。
二人が置いたのは、料理ではなく、巨大な葉の包みだった。リヨリの葉っぱはみずみずしく、フェルシェイルの葉っぱは黒焦げだ。
「フェ……フェルシェイル!?……リヨリさんも……それは一体……」
トーマも面食らっている。
いないはずの人間が、急に現れたのだ。それも、料理勝負に似つかわしく無い物を持って。
「ダンジョンで作ってきたわ!アタシ達の料理も、審査してもらうわよ!」
「まだ間に合うでしょ?……あ、トーマだ。久しぶり!」
観客がざわめく。ダンジョンで料理など、常識的にできるわけがないのだ。しかも、葉の包みはどう見ても料理には見えない。
「なんだお前ら!順番を守れ!」
ウルフフォークのラクレフが、怒りの声を上げた。
残りの枠は、三人分。先に審査される三人の方が圧倒的に有利だ。
「いや、試食前に複数の料理が出た場合は、同時に試食する決まりだ。お前達三人がそうであるようにな」
審査員長が首を振る。まだ、審査には入っていなかった。
つまり、リヨリとフェルシェイルにも同時に審査される資格がある。リヨリもフェルシェイルも、葉の包みは、試食直前まで解かないつもりのようだ。
「ぬぅ……」
「だが、試食は順番通りだ。レストラン・ドヴァイ、ラクレフよ。料理の説明を頼もうか」
「……あ、ああ。食人ツタのバーニャカウダだ」
ラクレフは自信無さそうに提供をする。肉食動物の獣人には、植物料理は鬼門でもある。
味覚の構造上、本当に美味いかどうかの確信が持てないのだ。だが、慎重派の彼は、コカトリスを使う冒険には出られなかった。
調理技術を評価される自信はあるが、他の候補者がいれば話は別だった。
「ふむ。……では次、ミサヤ亭のトーマ」
「は、はい!マイコニドのバターソテーです。お召し上がりください!」
「これは良いですね。マイコニドの下処理が丁寧だ」
審査員がキノコを褒める。しかし、その視線はリヨリとフェルシェイルの前の葉の包みにチラチラと向いていた。
その場にいる全員が、リヨリ達の料理が気になっているのだ。包みの葉からは香気が漂ってくる。
「それでは、鴎屋、セガル」
「ちっ、やりにくいぜ……焼きキラートマトだ、集中して食べてくれよ!」
セガルが一口サイズに切られたトマトを提供する。
キラートマトは、カルレラ地下ダンジョンでは一般的な食人植物だ。
成長すると子供の身の丈ほどにもなる、巨大な、真っ赤なトマトである。
転がり、真っ赤に熟した身体を押し付けることで他の生物を溶解し捕食する。
捕食と共に、肥大化した種子を犠牲者の体内に埋め込むことで、その肉体を苗床として繁殖するのだ。
その様子はどこか滑稽だが、時にはコカトリスすらも捕食する低階層では手強い魔物の一体だ。
捕獲難度の高さから、料理人達で捕まえられた者はほとんどいない。
「ほう、キラートマトか。よく捕まえた物だ」
予選審査員が褒める。だが、やはり、リヨリとフェルシェイルの包みに目が行ってしまう。